お題:夜のハゲ 必須要素:北海道 制限時間:15分 読者:17 人 文字数:1024字

田路歩沼の紳士
「この豚野郎」と思わず口走ってしまった彼女の剣幕に、一瞬惹かれるものがあったのは事実だ。実際、寡黙な性質の彼女がここまであからさまに感情を露わにするという事が珍しい事この上無しだのに、その冷たく言い放たれた言葉が深く穿っていくはずの僕の心は、不思議と昂揚(たかぶ)るのを禁じえなかったというだけでも。
 これは収穫だ。
 彼女はレルヒェン・能重院(のうえいん)・グラーフ・久良葉(くらは)と言って、我が家のメイドを生業としている。つまり僕は彼女の雇い主という事になる。
 久良葉はこれまでも様々な現場で重用されてきた、いわばトップレベルのメイドであり、その優秀さにおいては恐らくここまで聞こえの良いのは他にいないだろうと思われるほどに。
 その彼女を、僕が怒らせたわけである。
 怒らせてしまった。うん。という事は、彼女はこのままこの家を出ていくだろうか。しかし契約期間はまだまだある。今年いっぱいは働いてもらわなければ、僕も困る。つまらないことで言い争いなんてしたくない。言い争うつもりなんてない。こちとら無条件降伏だ。待遇に悪い所があったとは思わない。それ以上に、優秀極まりない彼女は仕事なんていくらでもあるし、正直言って身の程を知っている上での高給取りだ。
 だから、他の金持ちの屋敷ではどうだったか知らないけれども、少なくとも彼女の様な生い立ちの人間はハッキリ言ってしまえば下賎と断じて然りであるし、それを補って余りある整った容姿と、身に着けた立ち居振る舞いであっても、生まれついてのモノではないというわけ。だからって僕が彼女を下に見ているわけじゃない。他の金持ち連中だったら、そういう考え方をするんだろうなと思っただけ。
 久良葉は黙って僕を見つめている。困ったな。
「ちゃんと言っておくべきだったかもしれないけれど、久良葉、僕は鬼の血を引いているだけで、豚ではないんだよ」
「う、うるさい、この化け物」そして事実が耳に伝わり、現実を眼に焼き付ける間中、そうは言いながら彼女は僕のちょっぴりハゲ始めている前髪の生え際から突き出した角を直視できずにいることはバレバレなのだ。怯えている。口では強がっているが、これまで仕えてきた雇い主が人外であるという事に気付いて、怖気を奮いながらも立ち向かおうと努力している。健気じゃあないか。
 ところで、彼女に僕の正体がバレるなんて言うのは、想定の範囲内だ。問題は、この後彼女をどうするかということだ。
作者にコメント

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