お題:蓋然性のある境界 必須要素:美しい情景描写 制限時間:1時間 読者:31 人 文字数:838字 評価:1人

翡翠池で
 雪の日、翡翠池に行くと一番会いたい人に会える。ある人は、片思いの人に。ある人は、長らく連絡の取れなかった親友に。真偽のわからない噂でも、今の私には十分すぎるくらいだった。
 今日の天気は70%の確率で雪。100%ではないのが残念だが、雪が降ることを願って、私は翡翠池への道を行く。まるで鋭い刃物のような風に、私は身を縮めた。そもそもこんな寒い日に出かけようなんて考えもしないのか、森の中はしんと静まり返っていた。そうだよね、もしかしたら私、必死すぎるのかも。
 しばらく歩くと、翡翠池に着いた。雪はまだ降っていない。もちろん、誰もいなかった。ただその名の通り翡翠色をした湖面がそこにあるだけである。ため息は白い姿で上に登って行った。あーあ。これが雪だったらいいのに。どんよりとした曇り空を見上げた。
 まぁ、今雪が降ってないからってあきらめるわけにはいかない。どうしても、あいつに会いたいんだから。誰かが座れるようにしたのだろうか、断面がきれいに整えられた切り株に私は腰かけた。長丁場になることくらい、覚悟している。
 1時間後。あまりの寒さに家に帰ろうかどうか迷っていたその時、白い何かが手に触れた。雪だ。いかにも積もりそうな大粒の雪は、景色を白く塗りつぶすかのようだ。地面も、森も、池も、すべてを白く白く染め上げる。相変わらず人はいないが、そんな私の執着も、まっさらになってしまった。時間も忘れて、一緒の白になる。
 ふと、池が鏡のように光を反射した。銀のように輝くその姿はあまりにもきれいで、私は池をのぞき込む。
 あいつがいた。あの時のままの姿で。人懐こい笑顔を見せて。
「久しぶり」
 死んだはずなのに、何事もなかったように。
「会いたかった!」
 私は池に飛び込んだ。不思議と、水は冷たくなかった。あいつが私を抱き上げる。ずっとこのままでいたい。今まで起きた話を、あいつとたくさんするんだ。

 後日、一人の女が翡翠池で見つかった。彼女の顔は幸せに見えたそうだ。
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