お題:くさい芸術 制限時間:30分 読者:80 人 文字数:1150字

美的感覚
 給湯室の排水溝にいつもちぎれた麺が入っている。くっついているキャベツのような薄い緑のなにかを見るに、おそらく焼きそばの仲間にちがいない。気にせずに手で水をすくってうがいをしていると近くの廊下を人が通りすぎる。ここにふらっとやってきた人がこの現状をみたら「あっ、こいつ給湯室を汚して帰るついでにうがいをしているぞ」と見られちゃいそうだよな。殺人鬼が一家を刺して帰ったあとでやってきた親戚が「なんかやべーことになってるな」と思って通報したあとに一息をつこうと冷蔵庫のトマトジュースを飲んでいたら駆けつけた警察と目があっちゃうあの瞬間に類似している。たぶんそれも焼きそばの仲間。
 執務室に入ると電子レンジでお肉をチンしたようないやなにおいがする。ここはダイニングじゃねえんだぞ。もうすぐ午後の業務が始まるのでみんな席に座っているんだけど、いい歳したやつらが携帯電話に夢中になっているところはとんでもなくグロテスクである。彼らには妻や夫がいて、子どもがいる。そのガキも若いうちからきっと両親をみならってアプリのゲームやネットサーフィン、動画鑑賞を楽しんでいるんだろう。この国はヤバイと血走った目で叫ぶやつの気持ちもわからんでもないが、どうせそいつもネットの真実にのめりこんでいるんだから、やべーなー、囲まれてるな俺、敵はいないけど味方もいないよこの世界、となる。
 座ってスタンバイ状態になっているマットな黒のディスプレイを見つめていると、若松が声をかけてきた。苗字のとおり若い松である。老いたときには老松さんと結婚するべし。
「いっつも気になってるんですけど、外食って金かからないですか」
「外食じゃないよ、家」
「いえ?」
「家に帰ってね、朝に水にひたしておいたごはんをフライパンで炊いて食べてんの」
「会議室とか、みなさん集まって食べてますけど」
 会議室だってダイニングじゃねえんだぞ。
「ペットでもいるんですか」
「特にそういうわけじゃないけど。やっぱり外食は金がかかるし、食堂はないし」
「だから会社で食べればいいじゃないですか。弁当として持ってきて、みんなそうやっていますよ」
「俺の美意識がゆるさないのよ」
 若松は鼻で笑ったことをごまかして、大げさに声に出して笑った。
「なんすかそれ。くさいなあ」
 午後の開始を知らせるチャイムが鳴って、みながいっせいに動き出した。若松もネットニュースのページに向かって真面目な顔をしている。俺はまだ暗いディスプレイを眺めている。
 もしも叶うのなら、アトリエがほしい。リビングで安らぎ、ダイニングでご飯を食べ、寝室で眠りたい。そしてアトリエで仕事をしたい。でも、もうこの世界にアトリエは用意できそうにないし、給湯室の排水溝に焼きそばは残ったままだ。
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