お題:アルパカのカップル 必須要素:3000字以上 制限時間:1時間 読者:80 人 文字数:1445字 評価:1人

地に足つける
私は彼のしっかりとした足取りが好きだった。
文字通り、歩き方の男らしさはもちろん、同い年とは思えない器の広さ。他の男には感じない貫禄があった。貫禄といっても老成しているというわけではなく、身の丈をわきまえ、地に足がついているといった感じだ。

彼と結ばれるために動くように己の本能が反応しているのを感じていた。彼の気を引くべく、私は朝食・昼食・夕食いずれの時間も彼の隣に陣取った。彼はなかなかこちらに興味を示してくれなかったが、私が「おいしいね」と声をかけると「そうだな」と返してくれた。優しい優しい彼の声にうっとりする毎日を送っていた。


綺麗な見た目も彼の魅力のひとつだ。同じ場所で育っているのに、他の男たちとは比べものにならない、ワントーン高い白色の毛の美しさ、つや、柔らかな質感。散髪後だって、さっぱりとしながらもふわふわとした毛質は保っていた。触ったことはないけれど、触感の気持ち良さは見て明らかだった。


私はどうしても彼と結ばれたくてアタックを続けた。彼はとても格好いいのでライバルも多く、抜け駆けを許すまいと私を牽制してくる女もいた。それでも私は諦めなかった。食事中は鬱陶しがられない程度に話しかけ、お庭ですれ違えば軽めの挨拶を交わした。恋は駆け引きだ。押しすぎない方がいい。
私以外の女が次々と彼に想いを伝えては玉砕していく一方で、私は彼との親睦を着実に深めていった。
食事中、私から話しかけずとも彼から「今日は食欲ないのか?」などと声をかけてくれるようになった。お庭で時間を忘れて2人きりで話し込むこともしばしばあった。負けた女たちの嫉妬の目はどんどん鋭く刺さるものになっていったが、私にとってそんなことはどうでもよかった。

とにかく彼の一番になりたい。
その一心で一年を過ごした。

他の男女がどんどん結ばれていく。私は徐々に「余りもの」に近づいていったが、彼以外の男には興味がなかった。アプローチをかけてきた男もいたが、片っ端から断った。私の目当ては彼だけだったから。


そしてついにその時が来た。愛しの彼からアプローチを受けたのだ。


私に近づいてくる彼の目は明らかにいつもと違った。私を女として見る、ギラギラとした焦がすような視線。ああ、ようやく実った。これで私も彼と…。

彼は私の目の前で足を止めた。数秒、視線を合わせた。無言で了解を取ったかのようだった。

彼が前足を挙げ、二本足で立ち上がる。他の男にもされたアプローチと同じ手法だ。

私はそんな彼を見て、自分の中で温度がすう、と下がるのを感じた。
次の瞬間、彼が気持ち悪くて仕方なくなった。二本足でこれ見よがしに立ちはだかる彼は、私の好きな彼ではなかった。

しばらくして彼は四本足に戻った。それでも、もう私の愛した彼ではなくなっていた。

ああ、私は「しっかりと立っている彼」が好きだったんだ。愛するがあまり過剰に魅力的に映っていたのだ。思えば他の女は私ほどアタックしていなかった。好きになってすぐ告白して振られて他の男に乗り換え、結ばれていた。

こちらをキラキラした瞳で見つめてくる彼を見ながらそんな汚いことを考えた。多少の罪悪感はあれど、「仕方ない」と自分を守る気持ちの方がずっと強かった。

「もう、近寄らないでください」

彼に近づこうと励んだ過去を嘆くつもりはない。とても良い恋だった。
ただ、そんな私から離れていくことも許してほしい。
彼はもう私の好きな彼ではないから。


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