お題:アルパカのカップル 必須要素:3000字以上 制限時間:1時間 読者:66 人 文字数:1939字 評価:0人

「アルパカ以上に可愛い動物はいない」
「アルパカってしってます?」
目の前の女性はそう言ってぼくを見る。
「いや、まあ知ってますけど...それが何か?」
そう返すしかないぼくには些か質問の意図が読めなかった。見ず知らずの女性にアルパカについて不意打ちのように聞かれても、空気を和ますような会話も洒落の効いた返しも、逆にその場を凍らせてしまう寒いギャグも、何一つ思い浮かびやしなかった。
「まあ、知ってるよね...一時期前まで流行ってたもんね...」
急に話しかけてきた女性はただため息をついて天を見上げる。そもそも、なぜ彼女はぼくに話しかけてきたんだ。周囲をちらと確認してからこっそりと女性に小声で話しかけてみる。
「アルパカがどうしたっていうんですか。いきなり...僕は高名なアルパカ研究家でもアルパカを飼育しているわけでも、特別アルパカが好きなわけでも...」
「そういう人に限って真の魅力に気づくと、途端に目の色を変えてさぁ...人のこと言えないけどね?多少は思うところあるし...でもさぁ!なんかこう...うぅん...」
ついに顔を抑えて俯いてしまった。なんとか会話を返したものを、これでは関わっただけ損だった。これではぼくが悩ませているみたいではないか!
「な、悩みなら聞きますから...!」
他人として距離を置いてはこちらが不都合になるではないか、と焦って、また小さく話しかける。
それに顔を輝かせて素早い反応を返された。
「ほんと!?じゃあまずね、今私が推してるアルパカなんだけどね!?○○動物園のキャリーちゃんっていう名前で!もー既に可愛いでしょ?それに加えてあの眠そうな瞳の影!白い毛にその陰鬱な表情が凄く映えて、すっっっごくセクシーなの!アルパカって警戒心が強くて...」
堰を切ったように溢れ続けるアルパカへの愛が、彼女の口から突風の如く舞い続ける。
「あ...はい。へ、へぇ...そうなんですね...」
そんなことをぼくに話しかけてまで発散する必要はないだろう。それこそ、その魅力に気づくアルパカ同志にぶちまけて、同意を仰げばいいのにと内心苛立っていた。
「なにせ難しいのが専門家による行動の理由でさぁ。人によっておっしゃっていることが全く違うの」
「あの、僕もう時間なので...すいません先行きますね」
我慢出来ずに、腕時計を見るふりをして外面は申し訳なさそうに眉を下げる。赤の他人にノータイムで話しかけられる大物相手にこれで逃げ切れるかどうかは少々賭けだが、本当に時間もないしどうにか納得してもらうしかない。
「....そう。それならしょうがないです。こちらこそありがとうございました」
すると意外にも聞き分けがよく下がってくれた。好機きたり!と、会釈をして足早に歩き出す。背後は振り返らず、清々したとまで思って、家路へとついた。



なにも変な女性に話しかけられるのは1度ではない。何故か昔から様々な種類の寂しい人に絡まれてきた。ぼくは相手に踏み込まないように気を使って会話を断ち切る。それでもみんな追いすがってぼくを捕らえようとする。今から思うとあれらは全てナンパだったのだろう。なにせ、ぼくを褒め称えるかぼくの身につけているものに目を輝かせるか、会話の入りがその二択だったのだから。
「あのひと、なんだったんだろう...」
その中で最も異質なのはさっきの人だ。開口一番アルパカ、なんて単語が出るなんて、ぼくに何を求めて話しかけてきたんだろう。変なナンパだったなぁ、なんて自惚れてみたりする。実際ぼくはあの人のしつこさに苦労....しただろうか。
いや、案外簡単に解放してくれた。最終手段のぼくの嫌がる顔をみせたわけでもなく、巻き付くようないやらしい目もなく、話題が変なこと以外になにもしつこいことは無かった。
むしろ、ぼくが会話の続きを促してしまったようなものだった。周囲からの視線を気にしていたぼくを察して作戦を変えたとは考えにくかった。なにせ全ての周囲の疑問は恐らく、なぜ彼女はアルパカの話をしているのだろうという一点に集中していたから。去り際にはぼくでなく彼女に注意が向けられていたから。ぼくの思考すら、ぼくではなく彼女に向けられていて、久しぶりに心から、「このひと面倒くさいな」なんて思った。

「案外救世主だったりしたのかもしれない」
周りの目を気にする僕と違って、彼女の視点はアルパカのみを見ていた。ぼくは彼女に独り言のためのぬいぐるみにされていた。それが今になって惜しい存在だったように思えてきた。ぼくを見ない、初めてのナンパだったんだ。
○○動物園のキャリーちゃん、だっけ。
今度見に行ってみようかな。

アルパカを通じて、もう一度あの人に会えるかもしれないし。
作者にコメント

対戦作品一覧


ユーザーアイコン
作者:とよ お題:アルパカのカップル 必須要素:3000字以上 制限時間:1時間 読者:187 人 文字数:1445字 評価:1人
私は彼のしっかりとした足取りが好きだった。文字通り、歩き方の男らしさはもちろん、同い年とは思えない器の広さ。他の男には感じない貫禄があった。貫禄といっても老成し 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:アルパカのカップル 必須要素:3000字以上 制限時間:1時間 読者:86 人 文字数:3657字 評価:1人
アルパカは、怒った時に胃の内容物を吐きかける習性があるという。 その吐しゃ物は強烈に臭く、相手を近付かせないのに有効であるそうだ。 中学の頃の同級生で、有地さ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:アルパカのカップル 必須要素:3000字以上 制限時間:1時間 読者:91 人 文字数:3639字 評価:0人
「己たちのようなものをアルパカと言うらしいぞ」「なんじゃ、それは」「だから、アルパカだな、アルパカ」「動物だかの名前だろう、それは。お前のような間の抜けた面ぁし 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:カカオ20% お題:アルパカのカップル 必須要素:3000字以上 制限時間:1時間 読者:66 人 文字数:1939字 評価:0人
「アルパカってしってます?」目の前の女性はそう言ってぼくを見る。「いや、まあ知ってますけど...それが何か?」そう返すしかないぼくには些か質問の意図が読めなかっ 〈続きを読む〉

カカオ20%の即興 小説


ユーザーアイコン
作者:カカオ20% お題:僕と夕日 制限時間:15分 読者:44 人 文字数:216字
夕日なんて大嫌いさ。黄昏時なんて言って不気味な時間だし、落ちてしまえば一日が終わって夜になる。あれだけ明るかった窓の外が、途端に薄暗いオレンジ色一色に染まって、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:カカオ20% お題:アルパカのカップル 必須要素:3000字以上 制限時間:1時間 読者:66 人 文字数:1939字 評価:0人
「アルパカってしってます?」目の前の女性はそう言ってぼくを見る。「いや、まあ知ってますけど...それが何か?」そう返すしかないぼくには些か質問の意図が読めなかっ 〈続きを読む〉