お題:朝の怒り 制限時間:30分 読者:66 人 文字数:844字

何処にも行き着けない怒り
 「どうしてアンタはいつもいつも!」
 またか、と思った。ごはん茶碗が飛んできて、額ににぶい痛みが走る。
 うんざりした顔で、私は正面に座っているお母さんを、悲し気な顔で睨んだ。
 そのことが気に食わなかったのだろう、目を大きく見開き、
 「また、そんな、顔して!」
 今度は、おひたしの入った小鉢を投げつけてくる。その手に遠慮などなかった。だから、無性に悲しさとやりきれなさを感じてしまう。
 ストーブすら無い冬の室内で、毛布に身をくるんで食べる朝ごはん。手に持った茶碗の冷たさが、追い打ちをかけるように心を冷やしていく。
 お母さんの発作が始まったのは、去年の冬。お父さんと離婚して約二ヵ月が経った頃だ。
 もともと仲の良い夫婦ではなかったけど、誤魔化しながら、私が産まれてからも何年も一緒に過ごしてきた。それでも、お父さんは突然、別の女を作って出ていってしまった。
 元々、生活が厳しかった我が家は、さらに困窮した。
 離婚の傷を癒す時間などなく、生活費と私の高校の学費を払うために、パートの時間が三倍になったお母さんは、身も心も擦り切れていった。
 どんなに頑張っても、苦しさしか生まれない。「どうして、こんなに頑張っているのに」という嗚咽のような声を、こっそり聞いてしまったこともあった。
 そしてお母さんは、助けを求めるように、何かに苦しさの原因を見つけ出そうとした。
 それが、私だった。
 「あんたは、いいよね」という言葉が始まりだった。それを聞いた時、びっくりして固まったように動けなくなってしまった。反論して口を開こうとしたけど、何も言葉は出てこなかった。どうしてだろうと思って、気づいてしまった。
 私に怒りをぶつける具体的な理由など何もないのだ。込み上げる感情のやり場を探し求めて、必死に探し求めて、そして辿り着ける場所は私しかいなかったのだ。
 お母さんは、それほどに一人ぼっちだったのだ。
 だから、今の私にはお母さんの怒りを受け入れることしかできない。
  
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:朝の怒り 制限時間:15分 読者:128 人 文字数:753字
ふわふわと、清らかな水の中を漂うような感覚だった。 水面近くまで浮上し、そして深く沈む。滑るように水の中を進む。心地の良い冷たさ、瑞々しい抵抗感。 まるで、静 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ほわいと@次はポピパファンミ お題:くさい息子 制限時間:30分 読者:1 人 文字数:944字
真夏の日中、街中は地獄だと思う。ただでさえ気温は高いし、コンクリートジャングルには熱を和らげてくれるものなんて何もない。だからと言って、河川敷もさほど涼しいわけ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
フラット ※未完
作者:匿名さん お題:恥ずかしいロボット 制限時間:30分 読者:1 人 文字数:589字
まっ白な、工場の無菌室。最上級の清潔さが保たれたその部屋に、一体のロボットが安置されている。「……またか」 宮里は何度目ともしれないため息を漏らす。 他のロボ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ここで禁酒するなら最初から飲んでねえ お題:君と扉 制限時間:30分 読者:22 人 文字数:1525字
人間が文章を読めるスピードは、文章のタイプにもよるだろうが、おおよそ400文字/分程度だと言われている。日本語の場合、という条件も付け足す。ここで30分の間に 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:野球 お題:男の職業 制限時間:30分 読者:5 人 文字数:1110字
すげえ!男女差別だ!ジェンダーだ! 男女差別主義者の俺は快哉を叫んだ。 完全男女平等社会健全育成推進法案が可決したのち、ついに『完全男女同権平等雇用教育機会均 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
火の元商事 ※未完
作者:匿名さん お題:騙された川 制限時間:30分 読者:1 人 文字数:404字
「本当によいんですか?」「ええ、私共も子供が大好きでしてね。是非とも協力させていただきたい」 柔和な笑みを浮かべる社長。初めて顔を合わせた時は警戒心を抱いたが、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:砂糖あめ お題:俺の死 制限時間:30分 読者:4 人 文字数:613字
このまま生きていても仕方ないから死んだ。目を覚ましたら俺は死んでいた。死んだのに意識があった。この世に未練があるわけでもないのに、俺は幽霊のようなものになったら 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:イグモ@小説 お題:思い出の祖母 制限時間:30分 読者:10 人 文字数:684字
ロッキングチェアに深く体を沈めると、廊下の柱時計が正午の鐘を鳴らした。昼食の準備を放棄しながら、私は、この椅子に座って誰かが過ごしていた時間に思いをはせる。祖母 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:かっこ悪いダイエット 制限時間:30分 読者:2 人 文字数:362字
一也は首を傾げた。「これ、なんだったかな」 訝しむ視線の先、そこにあるのは古びた写真。久しぶりに帰省した実家の物置を整理していたところ、フレーム入りのそれを見 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:かわうそちゃん お題:男同士のにおい 制限時間:30分 読者:15 人 文字数:513字
とある川の河川敷。整備されていない区画をあるいていた。そこは雑草が生い茂り、妙な匂いが立ち込めている。「あの河川敷の整備されてないところ・・・出るらしいよ」友人 〈続きを読む〉

afternoon runnnerの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:afternoon runnner お題:灰色の同情 制限時間:30分 読者:108 人 文字数:880字
「悲しいかい」 小さな森の中でひとり。膝をかかえて、寒い日の猫みたいに丸くなって、あたしは泣いていた。 いつだったか思い出せない、それでも針のように鋭くとがっ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:afternoon runnner お題:今日のゲストは秋雨 制限時間:30分 読者:104 人 文字数:708字
一匹の狐が傘を差して交差点の真ん中でぽつんと佇んでいる。 漆に塗られた傘を肩に乗せ、何かを考えるようにあごをしゃくる。 細い雨粒が傘を優しく叩く音と、その合間 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:afternoon runnner お題:朝の怒り 制限時間:30分 読者:66 人 文字数:844字
「どうしてアンタはいつもいつも!」 またか、と思った。ごはん茶碗が飛んできて、額ににぶい痛みが走る。 うんざりした顔で、私は正面に座っているお母さんを、悲し気 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:afternoon runnner お題:薄汚い哀れみ 必須要素:鬼コーチ 制限時間:30分 読者:59 人 文字数:862字
銃口が冷たい眼差しを俺に向けている。 「その程度かい、愛弟子」 口の端をニィっと吊り上げ、拳銃を構える男が言った。 「もっと期待してたんだがな、残念無念だよ」 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:afternoon runnner お題:何かの殺し屋 制限時間:30分 読者:114 人 文字数:858字
オレンジの飴玉を溶かしたような透き通る夕焼け空だった。 河川敷の、誰もいない野球場を見ながら、俺はベンチに座って空を見ていた。右手の人差し指と中指の間には吸い 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:afternoon runnner お題:捨てられた地下室 必須要素:全力のグロテスク 制限時間:30分 読者:58 人 文字数:846字
グチャグチャという粘り気の混ざった不快な足音が聞こえる。少し離れたところで、恰幅のいい大男がいそいそと歩いているのが見える。医者が手術中に着るような薄緑色のエ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:afternoon runnner お題:夏の妻 必須要素:出会い系サイト 制限時間:1時間 読者:61 人 文字数:1451字 評価:0人
夏の人妻ほどいいものはない。大学の友人であるサイトウは言ってた。 うなじから首元へ流れる汗、透けてはりつく服、くっきりと浮き出る体のライン、暑さも忘れてベタベ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:afternoon runnner お題:鈍い絶望 制限時間:30分 読者:82 人 文字数:699字
無様に逃げ回るので精一杯だった。 勢いよく近くの岩陰に潜り込む。瞬間、先ほどまで自分がいた場所に、勢いよく猛火が放たれる。回避があと少しでも遅れていれば、自分 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:afternoon runnner お題:昨日の宇宙 必須要素:ラー油 制限時間:30分 読者:50 人 文字数:907字
――さて。 神は考える。人間がいくら哲学を極めても、到底達することのできない、現世界とは概念すらかけ離れた場所で、神は考える。神には、観測できるような実体とい 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:afternoon runnner お題:春の平和 必須要素:下駄箱 制限時間:30分 読者:60 人 文字数:804字
春の風が吹いた。 窓際に座って読んでいた本が、ハラハラと揺れる。 顔を上げて外を見る。広く澄み渡っている青さの空。電気を点けていない薄暗い六畳間と比べて、とて 〈続きを読む〉