お題:朝の怒り 制限時間:30分 読者:59 人 文字数:844字

何処にも行き着けない怒り
 「どうしてアンタはいつもいつも!」
 またか、と思った。ごはん茶碗が飛んできて、額ににぶい痛みが走る。
 うんざりした顔で、私は正面に座っているお母さんを、悲し気な顔で睨んだ。
 そのことが気に食わなかったのだろう、目を大きく見開き、
 「また、そんな、顔して!」
 今度は、おひたしの入った小鉢を投げつけてくる。その手に遠慮などなかった。だから、無性に悲しさとやりきれなさを感じてしまう。
 ストーブすら無い冬の室内で、毛布に身をくるんで食べる朝ごはん。手に持った茶碗の冷たさが、追い打ちをかけるように心を冷やしていく。
 お母さんの発作が始まったのは、去年の冬。お父さんと離婚して約二ヵ月が経った頃だ。
 もともと仲の良い夫婦ではなかったけど、誤魔化しながら、私が産まれてからも何年も一緒に過ごしてきた。それでも、お父さんは突然、別の女を作って出ていってしまった。
 元々、生活が厳しかった我が家は、さらに困窮した。
 離婚の傷を癒す時間などなく、生活費と私の高校の学費を払うために、パートの時間が三倍になったお母さんは、身も心も擦り切れていった。
 どんなに頑張っても、苦しさしか生まれない。「どうして、こんなに頑張っているのに」という嗚咽のような声を、こっそり聞いてしまったこともあった。
 そしてお母さんは、助けを求めるように、何かに苦しさの原因を見つけ出そうとした。
 それが、私だった。
 「あんたは、いいよね」という言葉が始まりだった。それを聞いた時、びっくりして固まったように動けなくなってしまった。反論して口を開こうとしたけど、何も言葉は出てこなかった。どうしてだろうと思って、気づいてしまった。
 私に怒りをぶつける具体的な理由など何もないのだ。込み上げる感情のやり場を探し求めて、必死に探し求めて、そして辿り着ける場所は私しかいなかったのだ。
 お母さんは、それほどに一人ぼっちだったのだ。
 だから、今の私にはお母さんの怒りを受け入れることしかできない。
  
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