お題:彼女が愛したパイロット 制限時間:15分 読者:82 人 文字数:685字

水際11
目の前で改札に吸い込まれていく磁気定期券を見て、昨日もこの後ろを通ったと思う。目の前の後頭部、黒いショートカットの後ろ側、見覚えがある背中だった。磁気定期券が吐き出されるゾッという音とほぼ同時にピッという音を立てて改札を抜ける。
酒の缶を持った、黒いコートを着たおとこが隣に座る。椅子はほとんど埋まっているが立っている人はあまりいない車内の、席の向かいの大きな窓ガラスに自分の姿がうつっていた。隣の男の顔はちょうど真ん中あたりに窓ガラスつなぎ目にかぶって、表情が見えなかった。
ぼんやりと向かい側の窓ガラスにうつりこむ自分と、両隣に座っている幾人かの人たちの様子を眺める。隣の男がこちらを覗き込んでいるようだった。顔が傾いていることしか分からず、目がどこを見ているかは分からなかった。私が手に持っている傘を覗き込んでいるような気がした。しかしそのあとすぐ、男の頭はさらに下に傾き、もしかしたら寝入っていただけかもしれない。
日付が変わった頃、夜更けにも関わらず子どものぐずる声が聞こえていた。帰る途中なのか、どこかに向かう途中なのか、それは分からなかった。
髪の毛の隙間の頭皮の白いのを見る、見覚えのない人だと思う。ぐずっていた子どもは大きな泣き声をあげて深夜の電車のよどんだ空気の中に沈む。頭を下に向けるのに夢中で、多くの人は寝入り、じっと身体をそこに沈めている。吸い込まれては出て行く、どちらかといえば今の時間帯は出て行くばかりだった。飛びだったまま二度と同じところに戻らない背中、しかし明日も同じところを通るかもしれない予感に目を閉じる。だれかが大きく咳き込んだ。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:傷だらけの希望 制限時間:15分 読者:6 人 文字数:249字
キャンディ・スキャンティがヨーロッパ・ロマネスク様式の部屋の宝石箱を開くと今日はそこに大学があった。スキャンダル好きなスキャンティはひとたばのギーク・ボウイたち 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:過去の血 制限時間:15分 読者:7 人 文字数:216字
左手首をかしげると、薄青い静脈が、すうと浮かび上がった。月明かりだけが窓掛け越しに照らす寝室で、ぼくは顔も知らぬ母親について思った。彼女のことは何も知らないのに 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ダツ・ Ambrose お題:壊れかけの耳 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:927字
この耳が壊れさえすれば、私はあの人を愛さなくても良いのかもしれない。愛しているから、あの人が私以外の人と仲良さそうに話している姿に苛立ってしまう。いや、むしろ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ダツ・ Ambrose お題:僕の好きな多数派 制限時間:15分 読者:7 人 文字数:1061字
好きな男の人がいます。なんて文章を書いた場合、普通の人間は女性、それも少女と呼ばれる世代が書いたモノだと判断するだろう。 だけれども、例えば『僕』っていう一人 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
おどりと。 ※未完
作者:日ノ宮理李@ひよよんとかなみの子ども お題:凛としたダンス 制限時間:15分 読者:9 人 文字数:626字
夢を見れなくなった僕は彼女をただ追いかけることに命をかけてた。 そんな僕をおそらく彼女は望まない。わかってるけど、僕というボクを維持するには必要だった。「…… 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:賢い絵描き 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:1219字
知り合いが「とてもいいモノを買った」と自慢してくるので見せてもらうことにした。 この知り合いは同人で漫画を描いていて、それにとても役に立つものらしい。 そんな 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:破死竜 お題:今日のゲストはバラン 制限時間:15分 読者:4 人 文字数:698字
「ようこそ、お越しくださいました」 寿司屋の出迎えにしては、大人しい。 「二名で」 「カウンター席でよろしゅうございますか」 「テーブル席で頼む」 「かしこま 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:隠された汁 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:541字
秘伝の出汁。関東で1番旨い親子丼を作る父が昔から使い続けている秘密のレシピなのだが、彼のもとで修行を続けて3年経った今でも教えてもらうことは叶っていない。「そり 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:DDT お題:情熱的な夜中 制限時間:15分 読者:9 人 文字数:561字
ここは霊の通り道。ひとことで霊といっても、オレはこの均質な“世界”と思われているものの、空間や時間軸からズレてはみ出したものすべてだと感じている。だから別段怖く 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:あにぃぃ お題:興奮した血 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:605字
懇願する姿が見たくて、愛しいお前を、僕は殴るんだよ。やめて、と涙をそうっと流して、噛み締めた歯がぎりりと聞こえるくらい。至近距離で見ると、お前はやっぱりとてもき 〈続きを読む〉

カ クの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:カ ク お題:たった一つの正義 制限時間:15分 読者:23 人 文字数:726字
後楽園はだめよだって人がいないから。ロマンスグレーの髪の毛をしきりにいじりながら、大きな声でそうつぶやいている。大きな声なのにつぶやいてるなんてちょっと間違って 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:カ ク お題:失敗のパソコン 制限時間:15分 読者:74 人 文字数:245字
冬の朝はほぼ夜のままで、黒々とした暗闇の中で、街灯の白い光が、わずかに緑色に色づきながら一定の範囲を照らしている。まだ星が強く光っていた。冷え切った空気が一枚の 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:カ ク お題:初めてのアレ 制限時間:15分 読者:89 人 文字数:644字
改札を出た先にある売店の壁にはサイネージが光っており画面は今日の星座占いが五位まで表示されている。自分の星座が四位に入っているのが見えたがサイネージの前には恰幅 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:カ ク お題:彼女が愛したパイロット 制限時間:15分 読者:82 人 文字数:685字
目の前で改札に吸い込まれていく磁気定期券を見て、昨日もこの後ろを通ったと思う。目の前の後頭部、黒いショートカットの後ろ側、見覚えがある背中だった。磁気定期券が吐 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:カ ク お題:煙草と出会い 制限時間:15分 読者:85 人 文字数:456字
冬になった。吐く息が白くなるのを見ると、毎年のことなのに少し驚く。夏は息のかたちが見えないのに冬は見える、夏に見えて冬に見えるものの正体を眼前にくゆらせる。それ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:カ ク お題:苦しみの冤罪 制限時間:15分 読者:100 人 文字数:743字
きみが、きみがね、たとえばGoogleMapで「ここではないどこか」を検索したって、ここから徒歩三分もかからないような場所しか出なくって、そしてそれでもそこに向 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:カ ク お題:プロの男の子 制限時間:15分 読者:91 人 文字数:670字
丸くて小さい手鏡を買った。カバーが赤色で、鏡自体にはなんの枠もついていない、いたってシンプルなものだった。ウェブサイト上の画像しか見てないから、実際自分の手のひ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:カ ク お題:肌寒い小雨 制限時間:15分 読者:107 人 文字数:588字
朝から強い雨が降っていて、遅刻しそうな身体が、一瞬ひるんですぐに駆け出す。雨のせいかぐんと冷え込んでいて、雨だと暖かくなるときもあるのに、と思う。スタスタと足早 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:カ ク お題:僕の好きなカラス 制限時間:15分 読者:103 人 文字数:774字
駅前にはいろんなものが集まりやすく、吸い込まれたり吐き出されたりする人々でいつもごった返している。その中を、誰より早く道を急ぎたい気分になったり、せかせかとする 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:カ ク お題:あいつの整形 制限時間:15分 読者:82 人 文字数:637字
すきっ歯をその笑顔にみとめる。綺麗に並んだ歯は小ぶりで、顎の大きさと少しアンバランスなようだった。きちきちと前歯から並んでいって、犬歯のあたりに隙間がいくつかあ 〈続きを読む〉