お題:疲れた光景 制限時間:30分 読者:16 人 文字数:1758字

ワンフォーオール
ワンフォーオール―ひとりは皆の為に。
うちの部のお題目である。
俺はこの言葉が大嫌いだ。

我がバレーボール部はこてこての体育会系色で、顧問の爺は今時ジャージに竹刀という出で立ちである。
上下関係は絶対、廊下で先輩にあったら道を譲れ、ミスをひとつすれば腕立て伏せ百回…
どこの戦前だと突っ込みたくなる風習が平然とまかり通っている。

「小林ぃ、なんだそのたるんださまは!気合をいれろぉ!」

今日も今日とて顧問の爺は覇気のない生徒に竹刀を振りかざしている。
彼の行動を正当化するのは”ワンフォーオール”のお題目だ。
腐ったリンゴが一つあれば周りも腐るという理論よろしく、全体の引き締めのために一人の気の弛みは決して許さない。
根性を叩き直すためならば、暴力も必要というわけである。

授業でならったファシズムという言葉が頭を掠める。
国が個人より優先、国の為に尽くすのが美徳。
こういった考えが行き過ぎて狂気となり、20世紀前半の凄惨な戦争を引き起こしたとか。
体育会系組織の中に根付く”チーム第一”の考えも、源流はこれと同じなのではないだろうか?
チームの為に個人が蔑ろにされる、時には個人に犠牲を強いる。
その考えに同調できないものは悪でひとつの目標に心をひとつにできるものだけが正しい。
そういった気風が行きつくところが、今顕在化して俺の目の前で竹刀を部員に何度もたたきつけているのではないだろうか。

「もうすぐ大会が近いんだ、こんなことに時間を費やしている暇はほんとはねえんだよ!おめえのせいだぞ、おら、無駄な手間をかけさせやがって!」

被害者の小林に責任転嫁しつつ、暴力は続く。
その表情に陶酔したサディズムが浮かぶのを、俺は見逃さない。

こんな狂った光景を、部員たちは神妙に、だが当然のことのように見守っている。
それが異常だという認識がないのだ。
それが”チームのため”に尽くすことを骨の髄までしみ込ませられた、体育サイボーグ達の日常である。

入学して深く考えずにバレー部を選択したことを、今さらながら後悔している。
何度も退部しようとおもったが、この部は一度入部したものを決して逃がさないのだ。
一言「やめたい」といおうものなら、部員達から”根性焼き”の鉄槌をあびせられることとなる。

先ほどから竹刀の風切る音に続いて、赤いものが飛び散りだした。
うずくまっていた小林が、やがてピクリとも動かなくなる。

「おう、小林、なんとかいって…ん?」

さすがに不審に思ったのか、顧問がかがみこんで小林をのぞき込む。
怒りに染まっていた赤い顔が、みるみる青ざめていく。

「死んでる…」

顧問のつぶやきに、さすがに場がざわついた。

「沈まれ!」

主将の一喝に、場のざわめきは収まった。
丸刈りにいかつい顔、ボリュームある肩幅。
みるからに”鬼軍曹”という風貌である。

「先生、遺体をどこかに埋めましょう。小林は今日部活にこなかったこととするのです」

俺は自分の耳を疑った。
主将の狂った提案に、さすがに顧問も一瞬怯んだような様子をみせた。

「もうすぐ大会が近い、こんな不祥事が発覚すれば我々は大会にでられなくなり、今までの練習がすべて無駄になってしまう。そんなことはあってはならない!」

熱っぽく語る主将は、完全に自分が正義だと思い込んでいる。
人は己の正義を疑うことができない生き物である。

「きっと死んだ小林も我々が大会で輝くことを望んでいます。一人は皆のために!」
「そ、そうだな…ワンフォーオールだ!」

その顧問の返事と共に、部員全員がうおおと賛同の声をあげた。
体育館を揺らすような大音声。
汗の絆で結ばれたスポーツマン達が心をひとつにして、一人の部員の死を隠蔽しようとしている。
彼らには今の自分たちが、さぞ美しく映っていることだろう。


…俺はなんだか疲れてしまった。
もともと協調性や信念にかけた人間だと自覚している。
それが必ずしも悪いことだとは思わなかったが、今ではその考えが確信に変わっていた。

俺は体操着のポケットからスマホを出した。
110番をプッシュした。

「もしもし、警察ですか。今顧問の暴力でバレー部員が一人死にました。すぐ来てください」

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