お題:突然の命日 制限時間:1時間 読者:14 人 文字数:1379字

人間らしく
 数カ月前、国際連合が全世界に向けて一つの宣告をした。
 半年後、宇宙より飛来する巨大な隕石によって、地球は致命的なダメージを被り、崩壊する。

 初めの内はノストラダムスの大予言のような世迷言であると、誰もが思っていたが、日を経るにつれ、有識者の焦りが如実となるようなニュースが増え、皆が皆、確信に至った。
 犯罪の増加に、インフラの崩壊。文明人が積み上げてきた社会制度も、全人類の余命宣告を前にしては脆くも崩れ去った。

 都市部が見るに堪えない惨状と化す一方で、地方では、場所によって有志が慎ましやかながらも生活基盤を維持し、制度ではなく風習を守り、静かながらに暮らし始めた。
 俺もそんな静かな地方で緩やかに命日を待つ人間の一人だ。

 俺が住む地域は日本円が使える。今の時世では非常に驚くべきことで、場所によってはコンビニも稼働しているし、国連の宣告前と殆ど変わらない生活も可能だ。
 それもひとえに、死ぬ最後の瞬間まで、いつも通りの日常を過ごしたいと願い、今以てその願いの実現に向け行動をしている人達のお陰だ。

 俺はどうしても普段通り過ごすというのが時間の空費ではないかとしか思えなくなり、勤め先の会社を辞めたため、そういった人たちに対して憧憬の感情すら抱く。
 かといって、何か空費と思わぬような物事をしているのかと言われればそうではなかったが。

 そんなある日のこと、食料品を買いに行くため、俺は近くで稼働しているマーケットへ向かった。
 日持ちする食料をかごに突っ込み、レジへ向かう。女性店員にかごを渡し、自分の財布を確認していると、近くに死んでしまうということが嘘のように感じられた。
 ふと、レジ打ちをする店員と目が合った。見た目は宣告前と何らいつもと変わらぬ調子である。

 「なぜ働いているのですか?」

 しまったと思った。本来であれば聞く気のない質問だった。自分の意思に反して、口から零れ落ちたかのようで俺は慌てて

 「いえ、何でもないです」

 と体裁を繕う。
 宣告前では単なる不躾な質問だっただろうが、今の時世あってはそれも違った意味を持つ。
 静かな湖畔に、いたずらに波を立てるような真似はする気がなかった。

 しかしながら女性は作業の手を止め、俺の顔を見て朗らかに笑うと、こう答えた。

 「最期まで人間らしく居たいのです」

 淀みない言葉だったので、もしかすると幾度となく訪ねられたのかもしれない。
 その言葉を聞いたとき、ふと、自分の中で何か腹が据わったような心持がした。

 「人間らしく、ですか」

 言葉を繰り返したのは女性と話を続けたかったというよりも、自分の中で確認をしたかったからだ。
 人間らしく。人間らしく。心の中で幾度もそれを反芻する。

 「ええ」

 俺の様子を見て、女性はやはり柔らかに笑みを浮かべた。

 次の日、俺は久しぶりにスーツへと袖を通し、会社に向かった。
 誰も居ないだろうなという思いに反して、会社には常と変わらぬ面々がいた。

 「おう、久しぶり」

 デスクに座っていた同僚が片手を挙げて微笑んでいる。 

 「何しに来たんだ?」

 底意地悪くにやにやと訪ねてくる同僚に、そういえばこういう奴だったと思い出し、自然に俺も笑う。

 「人間らしくしに来たんだ」
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:RA907 お題:苦しみの恋愛 制限時間:1時間 読者:11 人 文字数:575字
「ああ君はなんと美しいことか。麗しき静寂よ、どうか私に微笑んでおくれ。その暗がりにしゃがみ込む栄誉に浴す私に。私だけに微笑んでおくれ。私には君が必要なのだ。あ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
GAFA評価 ※未完
作者:匿名さん お題:僕の好きな動機 制限時間:1時間 読者:1 人 文字数:1635字
お題小説が思いつかないのでブログです。 今回は”GAFAの弱点”です。 色々と言われているGAFAですが、筆者はその1つ1つが優れた企業とは思っていません。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:akari お題:ナウい善 制限時間:1時間 読者:11 人 文字数:1900字
「それで、また孝がさ――」「なにそれウケる!」「……うんうん、ウケるウケる!」 ――何がそんなにウケるんだろう? とりあえず口で同調して、その後で理由を考えてみ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:晴旬深八 お題:記憶の尿 制限時間:1時間 読者:13 人 文字数:2715字
十二月十七日トイレに行くたびに記憶が抜け落ちていると気付いたのは、ほんの数日前のことだ。最近になってなんか頭の一部がもやもやしている気がして、その日は違和感の正 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:冷たい旅行 制限時間:1時間 読者:4 人 文字数:1388字
俺の名前はカイト、俺の趣味は、旅行や外出するのが趣味だ、だから今日は1人でりょうへ行こうとしている。するとお母さんがやってきた「カイト旅行の準備は出来てるの?外 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:苦い船 制限時間:1時間 読者:8 人 文字数:860字
その瞬間、俺の身体は宙に浮き、涙は星になった。 平日の冬の日だというのに、遊園地のアトラクションは、どこも半分近く席が埋まっている。鼻を真っ赤にして、上下する 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:晴旬深八 お題:捨てられた神様 制限時間:1時間 読者:16 人 文字数:2358字
僕は、何をしても駄目な人生を送ってきた。学生時代からそうだ。どれだけ勉強を頑張っても本番で失敗するし、友達ともまともに付き合えたことがない。運がないというか、詰 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:記録にない博物館 制限時間:1時間 読者:6 人 文字数:895字
世間はわたしを一人にさせてはくれない。一人でいれば、友達を作れと言われる。家で本を読んでいれば、外に行ってらっしゃいと言われる。一人でいるのが好きなのだというと 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:阿修羅花 制限時間:1時間 読者:7 人 文字数:1492字
お題小説が思いつかないのでブログです。 今回は”理系職からの文系職へのコンバート”です。 理系学位取得卒業時、30歳前後、40歳手前、50歳手前といった感じで 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:晴旬深八 お題:最弱の強奪 制限時間:1時間 読者:27 人 文字数:1980字
そこは、冷たい空気に満たされていた。ドーム状に閉ざされた天蓋。陽の光が通らない室内に影は深く沈みこみ、肉眼による視認を拒む。ゆえに意識するのは鼻を突く強烈な汚臭 〈続きを読む〉

ppw21の即興 小説


ユーザーアイコン
作者:ppw21 お題:突然の命日 制限時間:1時間 読者:14 人 文字数:1379字
数カ月前、国際連合が全世界に向けて一つの宣告をした。 半年後、宇宙より飛来する巨大な隕石によって、地球は致命的なダメージを被り、崩壊する。 初めの内はノストラ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ppw21 お題:ロシア式の悪 制限時間:1時間 読者:15 人 文字数:1100字
「友よ、ロシア式の悪とはなんだ?」 友人の唐突な質問に俺は図らずも片眉を上げる。 いつものことながら何かにつけ、不躾な奴なのだ。 ついこの間も、弁当の中に入って 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ppw21 お題:意外!それはバラン 制限時間:1時間 読者:21 人 文字数:862字
「こんなはずれに呼びつけて、何用だ? バラン」 クロコダインはぐるりと辺りを見渡す。人里どころか草木の一本も生えていない岩肌の見える荒地だ。 本来であればこの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ppw21 お題:寒い諦め 制限時間:1時間 読者:22 人 文字数:626字
冬が近づいてくると、俺は決まってあることをする。 ふと、寒いなと感じたときに空に向かって息を吐くのだ。白くなればそれなりに寒くて、白くならなければまあまあ寒い 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
所天 ※未完
作者:ppw21 お題:意外なところてん 制限時間:1時間 読者:23 人 文字数:876字
ダイニナカ島に住む島民は少し変わっている。 小さな顔に大きな目をしていて、目には鋭い瞳孔がある。ピンと先の尖った両耳に、お尻からはにょろりと尾が伸びる。 手に 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ppw21 お題:漆黒の闇に包まれし団欒 制限時間:30分 読者:35 人 文字数:486字
「随分なところまで来ちゃったな」 どこか疲れたような調子を伴う明の声に、悠里は頷いた。「そうだね」 熾の多くなった焚火を眺めて、思い立ったように悠里は腰を上げる 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ppw21 お題:悔しい野球 制限時間:1時間 読者:35 人 文字数:834字
私には父親がいない。理由は分からない。 物心がついた頃には父が居なかった。所在をわざわざ母に訪ねるほどの度胸や神経もなかった。 故に今後もなぜ父がいないのか、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ppw21 お題:静かな慰め 制限時間:30分 読者:31 人 文字数:782字
俺は弟が嫌いだ。なにせ、どう接していいのか分からない。 言葉遣いは拙いし、何かにつけ俺の後ろをついて回る。煩わしいことこの上ない。 父さんや母さんはそれくらい 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
わが弟 ※未完
作者:ppw21 お題:子供の演技 制限時間:30分 読者:32 人 文字数:1237字
「学芸会ぃ?」 「そ、あんた土曜暇でしょ? 私の代わりに見てきてちょうだいよ」 わが母は女手一つでわが家の一切を取り仕切るシングルマザーである。 性格は剛毅に 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
かげろう ※未完
作者:ppw21 お題:日本式の悪意 制限時間:30分 読者:37 人 文字数:854字
日中の烈日を色濃く残した蒸し暑い夜空に半月が座している。頼りない月明かりが照らす住宅街の夜道をひた走る男が一人。 名は鴨下正。中肉中世で短く刈られた頭、多少の 〈続きを読む〉