お題:不本意な道 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:705字

交差点
(#96)

 男は走っていた。
 息を切らして、喉はカラカラで燃えるように熱い。
 もう走ることをやめて、このまま倒れ込んでしまいたい。
 けれど、それは男にとって死を意味する。
 後ろを振り返る余裕もなく、ひたすら前だけを見据えて男は走り続けていた。
 いつか理想郷に辿り着けるのだと信じて。

 女は歩いていた。
 うつむき加減で、後ろ向きに移動していた。
 見えているのは自分の足元ばかりで、だから一歩を踏み出すのがとても怖かった。
 自然と歩幅は狭くなり、どれだけ時間が過ぎても彼女のテリトリーは殆ど広がらない。
 けれど、女はそれで良かった。
 自分だけの世界にこもっている方が心地よかったのだ。

「わっ!」
「きゃっ!」
 男と女がぶつかって、声を上げて倒れた。
 特に女の方は前のめりに転んだせいか、なかなか起き上がれないでいる。
 男は自分が足を止めてしまったことに動揺している様子だが、すぐに気を取り直して女に近づいた。
「大丈夫ですか?」
 女は膝を痛めたようだ。
「大丈夫…じゃないかも」
 道に座り込む姿勢で女は自分の両膝をさする。
 男は心配そうにしゃがみ込み、女の様子を観察する。どうやら血は流れていないようだ。
「心配なので、今から病院に行きましょうか」
 男が提案すると、女は、
「いえいえ、どうか気にしないで下さい。私は一人で大丈夫ですから」
 と恥ずかしそうに答えた。
 けれどその内心は、久しぶりに誰かと話が出来ていることに喜びを感じているようだった。
 男もまた、自分が自然に足を止め、誰かと会話していることに驚いていた。
 二人は顔を見合わせて自然と笑顔になった。
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