お題:知らぬ間の牢屋 制限時間:15分 読者:55 人 文字数:617字

でもしかティーチャー ※未完
 改札を通って北口に向かっていると、真新しいポスターがでかでかと貼ってあるのが目に入った。
「『できない君』も『できる君』に!」
 どうやら近くに学習塾ができたらしい。名前には見覚えがあったのでどうやら大手の塾らしいが、どうにも信用ならない気がした。それはたぶん、「できる君」というフレーズが気に入らなかったからだろう。
 自分も昔は「できる君」だったと思う。大人にはよく褒められた。当然おべっかもあったろうけれど、全部がそうだったわけでもないだろう。勉強も苦手ではなかったし、問題行動を起こした覚えもない。中学も高校も大学も、大人たちが「いい学校だ」と異口同音に言うようなところへ入った。両親や塾の先生の望みに、自分にできる最大限の努力で応えたと思う。
 でも、だからどうだったというのだろう。
「おはようございます」
「おう、お前あれ見たか?」
 職場の入口であいさつをすると、すでに来ていた土方さんがすぐに声をかけてきた。自分の席に荷物を置きながら、駅で見てきたポスターのことが思い浮かぶ。
「駅のやつ、やっぱり土方さんも見ましたか」
「やばいよなあ。あんな大手に来られたら、こんな弱小塾すぐに潰れちまうよ」
 そんなことを言いながら、しかしその声にはそれほど悲観の色は混じっていない。むしろ、土方さんは不適な笑みを浮かべて背もたれに寄りかかっている。「来るなら来い。やってやる」土方さんなら、きっとそう思っているのだろう。
 
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