お題:楽観的な友人 必須要素:栓抜き 制限時間:1時間 読者:59 人 文字数:2184字 評価:0人

ビンと栓抜き
友達のケイはいつでも栓抜きを持っていた。
サッカーをするときも、ゲームをするときも、学校で勉強するときも栓抜きを手にしていた。

当然、いろんな人から注意されるけど、決まって「いやあ」と笑うばかりでまったく手放そうとしない。

あんまりにも頑固に手放さないもんだから、上手い癖にサッカーでレギュラー入りすることもなかった。当たり前だ。対戦相手が栓抜き片手に突進してきたら、ちょっとしたホラーだ。

先生からの注意も、シャーペンの後ろに栓抜きを独自融合させたものを持ち出してからは無くなった。強引すぎる解決法に先生が諦めたとも言う。

ごくごくたまに、王冠のついた栓抜きが必要な場合があったりするけど、不思議とそういう時に限ってケイはいなかった。肝心な場面で失敗する、それがケイという友人だった。


どうしていつも栓抜きを持っているんだと、前に一度聞いたことがある。
ケイは言った。

 ほら、たとえば凄く可愛い女の子がいたとするでしょ?
 で、その子はビンのジュースを持ってるわけだ。

 ――ねえ、その前提からして無理がない?

 そんなことない! そんなことないから!
 で、その子はジュースが飲めなくて困ってるだろ? そんな時、この栓抜きがゼッタイに必要になるんだよ!

 ――……その前提からして無理がない?

 なんで二回言うの? なんで二回言ったの!? とにかく! 夢なんだ、きっとそういう出会いがあるんだ、そのために必要なんだから、この栓抜きを持ってるんだ!

ケイは笑顔で顔でそう言った。
僕は「夢が叶うといいね」と棒読みで言った。誰がどう聞いても感情の一切篭らない棒読みだった。
だけど、以後ケイは僕のことを唯一無二の親友として扱った。どうやら、いままで誰一人としてケイの栓抜きを肯定してなかったらしい。ちくしょう。


ケイはそれからも栓抜きを持ち続けた。ひとときも手放すことがなかった。
自転車に乗ってちょっとした遠出をした時も、だからケイの手には栓抜きがあった。
後ろから立ちこぎしながら全力疾走している奴の片手に、銀色に光るものがあるのは妙な気分だ。

疲れた僕らはコンビニによってジュースを買った。僕はペットボトルのキャップを捻る、栓抜きの出番は当然ない。ケイ自身だってホットコーヒーの金属キャップを捻ってる。

 ――栓抜きが必要な飲み物って、ほとんど見かけないよなあ。

僕はぼそりとそんなことを言った。
ケイに物凄い勢いで反論された、ケイ自身栓抜きのいらないホットコーヒーを飲みながら。

 ――だったら、コンビニで栓抜き必要なもの買って来いよ、奢ってやるから。

苛立ち半分に僕はそんなことを言った。
売り言葉に買い言葉、ケイは栓抜きを強く握りしめ、「コンビニを、舐めるな……!」と言って向かった。その後ろ姿は、人によっては雄々しく戦場に向かう勇士に見えたかもしれない。けど実態は犯罪一歩手前だ。

馬鹿だなー、と思いながら、ひょっとしたら酒とかなら王冠付きのがあるかもなとも思う。僕らは買える年齢じゃないけど、ケイの奴なら何も考えずに購入しそうだ。
あるとすればどんなのだろう? 酒なんて飲まないからピンと来ない。そう、たとえばビンに入っている奴で、ちょっと高めのやつなんかで、ちょうどあの子の持っているのみたいな――

 ――。

絶句した。
自分の目が信じられなかった。
だって、僕らと同じくらいの年代の子が、片手に、ビンのジュースを手にしながら、歩いていた。
間違いなく、そのジュースは王冠で蓋がされていた、栓抜きじゃないと開かない形をしていた。
その子は、迷うことなくコンビニに向かっていた、他に目的地はないというような足取りで、ビンを手に持ちながら。

ちょうど、ケイの奴もコンビニから出た。がっくりした顔は、店内で目当てのものが見つからなかったことを示していた。けど、当然、その手には栓抜きがある。

ぴりっとした電気が走ったのを、たしかに見た。

ケイと女の子、互いの視線が互いの持つものに引き寄せられたのが、わかった。
僕は固唾をのんでその様子を見守る。いつの間にか両手で拳を握っていた。

ゆっくりと、ケイの顔が上がる。僕からは信じられないという表情が見える。開いたガラス扉からコンビニの店員の「ありがとうございましたー」という間抜けな声を漏れた。

手が、上がる、差し出すように。
女の子は、おそらくそれを一瞥し、
そして――

「ハッ」

一笑に付してスタスタとコンビニに入った。ケイの「これ、使います?」と言わんばかりの栓抜きは空中に固定されたままで残された、ケイも微動だにしない。

そのまま十秒が経過した。
固定された栓抜きは、やがてゆっくりと持ち上がり、そのままケイ自身の頭をコリコリと掻いた。まるで最初からこれが目的だったんだよとでも言うように。

そのまま僕のところまで来て、

 いやあ、やっぱ無かったよ!

何事もなかったかのように言った。

 ――泣いてね?

その目尻に光るものを見かけての僕の問いかけには「泣いてねえから! あのビンじゃなかっただけだから! また別のがゼッタイあるから!」という反論がすぐに来た。

僕は賭けには勝ったはずだが、ケイにジュースを奢ってやることにした。
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