お題:楽観的な友人 必須要素:栓抜き 制限時間:1時間 読者:64 人 文字数:2432字 評価:1人

栓抜き係
 ついこの前、医者に余命半月を宣告されたばかりだというのに、友人を訪ねてみると元気いっぱいだった。むしろ、病気がわかるまえより元気かもしれない。
「だって、あと半月しか生きなくていいわけだから、もう貯金もしなくていい。仕事もやめたし、あと二週間とちょっと、好きに遊んでくらせるんだぜ。まるで天国だ」
「実際、半月後には天国なわけだが」
「いつ死ぬかわかるってのは気楽なもんだ。うらやましかろう」
 俺の脳裏には、ノストラダムスを真に受けて、どうせ全人類死ぬからと貯金を使い切った人たちの存在が思い出されたが、言いはしなかった。余命というのがどれほど正確なのか、一日も違わず15日ぴったりで死ぬわけもない。俺の祖父は心臓病と診断され、すぐ死ぬはずだったが、それから結局五年も生きた。全財産を使い切って、もし余計に生き延びたらその期間をどう過ごすつもりなのか。
 まあ、そのときは、家に呼んで飯でも食わせてやればいい。
 長年の付き合いの友人が死ぬのだから、そんな計算違いも含めて、最後まで見届けてやるつもりだった。

「余命発覚を記念して、今夜はお祝いだからな」
 電話で気軽に告げられて、家に駆けつけてみれば友人は楽観的で、しかも夕食は豪勢ときて、すこしでも深刻に受け止めてやろうとしたのも馬鹿らしい。正直最初はパニックで、見舞いと勘違いして花と果物を持ってきてしまったが、この分ではパーティーグッズでも持参したほうが喜ばれたかもしれない。
「そのへんは抜かりない。お前のぶんの三角帽子とクラッカーは用意してある」
「誕生日じゃないんだから」
「いちごの載ったホールケーキもあるぞ」
 子供時代をさかのぼっても、こんなにベタなパーティーはしたことがない。試しに写真を撮ってみたら、コントのようなわざとらしさだった。作り物じみて、まったく本物のように見えない。小道具も映る人物も、写真を撮るためだけに用意されたようだ。
 どうにもおかしくて、俺はパーティーのあいだじゅう、ずっとその写真ばかり見つめていた。
「そんなに気に入ったのなら、やるよ。記念にとっておいて、俺が死んだあとに、部屋の目立つところに飾っておいてくれ」
 そこまで含めてベタだった。

 友人にとっての友人は俺だけではない。余命宣告から15日間、友人はかわるがわる友人知人を家に呼んで、パーティーを開いた。俺は呼ばれたり、呼ばれなかったりした。俺はなにも、いちばんの友人というわけではない。俺にとっても、あいつは友人のひとりに過ぎない。
 ただ、もうすぐ死ぬから、一時的に特別な友人に格上げされているだけだ。
「パーティー資金が底をついた」
 友人がガッカリした様子で訪ねてきたのは、10日めくらいのこと。あとさき考えない金遣いのせい、とばかりも言えない。世の中悪いやつがいるもので、タダ飯が食えるとあって、パーティーにかこつけて友人にたかりきた輩がいたのだろう。
 同情の余地はあったし、最初からそのつもりでもあった。俺は友人を家に迎えいれた。

「まあ、文無しをただで家に置いておくわけにもな。家事くらいは手伝ってもらうよ」
「あれ? お前もうちでタダ飯を食らったひとりの気も……」
「仕事を与えてやろう」
 とつぜんだが、俺は風呂場が苦手だ。特に、風呂に入ったあと、浴槽に溜めた水を抜きに風呂場にもう一度入るのが苦手だ。壁にも天井にも冷えた水滴が張り付いていて、空気中に半端に残った湯気が息苦しい。たまにどこかから入り込んだなめくじが床を這っているのも嫌で、そんなわけで、最近はあまり風呂に入らない。
「いや、風呂にくらいは入れよ」
「というわけで、お前を『栓抜き係』に任命する!」
 友人にかわりに栓を抜いてもらって、窓を開けて換気をしてもらうことで、俺の悩みは解消された。風呂掃除は自分でやった。換気さえしてもらえば、風呂場は乾くから、全然平気になる。
「救世主……これからもよろしく頼むぞ」
「そこまで感謝されるとはな。任せておけ」
 おだてれば、友人はいくらでも働いた。なんと、毎日休まず栓を抜いてくれるのだ。あんなにも嫌で仕方なかった苦行を、進んでやってくれる。俺はいい友人を持った。

 気づけば月日は流れ、五年が過ぎていた。
 仕事の合間に、ふと今日が自分の誕生日だったことを思い出して、コンビニでケーキを買った。ザ・誕生日会みたいな、ベタないちごのホールケーキがあって面白かったからそれにした。
 家に帰ると、友人がまったく同じケーキを用意していたから、ノルマはひとり1ホールとなった。
「そろそろ俺も働くかなあ」
 切りもせずにケーキに直接フォークを突き立てながら、友人が出し抜けに言った。
「お前はよく働いてるよ」
「いや、栓抜き係じゃなくて、外で働こうかなって話」
 俺はあまりのショックにフォークを取り落とした。
「そんな……お前がいなくなったら、誰が風呂場の栓抜きをやってくれるというんだ」
「栓抜きは続けるよ。それとは別に、就職しようかなって」
「ならいいや。ずっと家にいるのも健康に悪いしな」
 同居人が後押ししたことで乗り気になったらしく、友人は食卓に広げた求人情報誌をめくりはじめた。ケーキをもりもり食べながら。
 そういえば、すっかり忘れていたが、友人の病気のほうはどうなったんだろうと思う。一緒に暮らしているが、食生活が変わる様子もないし、病院に行ったりもしていない。末期すぎて、治療の必要がないのだろうか。五年経ってるけど。
 友人が死んだら、あのときの写真も飾らないとならない。どこにしまったっけ、と記憶を探る。この前、アルバムを整理したときにはなかった。なくしたかもしれない。死ぬまえに見つけておかないと。
「お前さ、余命あと何日なの」
「ん~? 半月かな」
 友人はあきらかに適当に答えた。だいたいにおいて、医者の診断などあてにならない。



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