お題:絵描きのローン 制限時間:30分 読者:23 人 文字数:1481字

壁が埋まるその日まで
ついに出会えた。
その想いが私の胸を震わせ、思わず涙が溢れてしまった。
無理もない、私が50年もの間探し求めていたものが遂に見つかったのだ。
この薄暗くカビ臭い路地裏のアトリエで。

まだ若く、美術大学に通っていたころから私は自身の才能に気づいていた。
絵画や、彫刻の才能ではない。むしろそれらを扱う才能-画商の才能とでも言おうか-があったのだ。
誰もが嘲笑っていた同級生の不思議な色彩の絵。打ち捨てられた粗大ごみのようにも見える後輩の彫刻。「芸術」をバカにしたようにしかみえない名もなき作者の現代アート。それらすべてを私は美しいと思った。世間がそれらを「独創的な芸術」ともてはやし始めた頃には、私はすでにその何倍もの数の「独創的な芸術作品」を扱う画商となっていた。

世間が自身の才能を認めてくれると、私は嬉しさを感じるとともに一抹の不満も抱きはじめた。
確かに、これらはすべて美しいものだ。そしてかつては世界で私と作者だけがその作品の美しさを知っていた。独占していた。しかし今はどうだ、陳腐な言葉とピンボケた写真でその美しさを「共有」(欲言えば、だが。悪く言えば引き裂いている)してしまっている。

年々その思いが強まるとともに、私は作品を探し始めた。
私以外の、世界の誰もが、その美しさを「共有」できない作品を。


そして、今日。目的地へ向かう途中、ふと立ち寄った南欧の小さな町。
その路地裏に「それ」はあった。
調和などあってないような色彩。落書きのような構図。意図のないテーマ。
しかしそこに、不思議な調和と輝くような美しさがあった。
感動に打ち震えた私がそれを眺めていると、一人の男がオドオドと声をかけてきた。

「あっ……それは、さ、その、あんまり上手くないけどさ。まだ、アトリエにあるから……」
良かったら買ってはくれないか、と消え入りそうな声で男は呟く。
「この絵は君が?」
「あ……まぁ、一応……」
所在なさげに目を泳がせる彼の手を握り私は言った。
「アトリエにある絵を全て見せてくれまいか。」

誰もが「共有」できない作品を求める私の夢は、その作品を集めて美術館を作ることだった。
誰も理解できない作品を、美しく豪華に、展示する。
その本質的な美しさを誰も「共有」できない美術館は私にとって至高の、究極の贅沢だった。
すでにその建物はとある芸術都市の一角にできていた。
あとは彼の絵をそこに飾るだけ。遂に私の生涯の夢が叶う時が来たのだ!


ところが彼のアトリエに行き私は驚いた。
「この5枚で、絵は全てかい?」
「う……その、他のは……」
彼が言うには、他の作品は(残っている5枚もだが)どれも酷い出来だった。だから捨ててしまった、とのことだった。
私は大いに失望した。残った5枚も、最初に見た一枚同様に素晴らしい出来だったからだ。
しかしたった5枚では美術館は成立しない。
そう言って全てを説明すると、彼は今にも泣き出しそうな顔になった。
「び、美術館はありがたいけど……捨てた絵は戻らないし……」
そんな彼に私は言った。

「本当に残念だ。君のような素晴らしい画家の作品を展示したかったが。
そして、私は今起こっているんだ。なぜ作品を捨てたりなんかしたんだ?
こんなにも素晴らしい作品たちを、君はなぜ捨てたりできるんだ!?
……もし君の作品が全て残っていたら、美術館の壁は埋まっていただろうよ。
これは君の責任だ。芸術家としての責任だ。
だから、今から書き給え。美術館の壁を埋めるだけの作品を。
これは、君のローンにしておこう。」
作者にコメント

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