お題:昨日の地下室 制限時間:1時間 読者:80 人 文字数:1893字

さかさま被爆地
 おじいちゃん家の敷地内には、お家以外にもいくつかの土蔵がありました。お米を貯めておくためだとか、畑で取れたお野菜を漬けておくためだとか、使い方によって分けられています。
 あたしはそこでよく遊んでいました。お昼なのに真っ暗闇でドキドキしたし、大人たちの目が届かないところで冒険しているような気分になれたからです。

 一度土蔵について聞いたとき、おじいちゃんはこう言いました。
「あそこには行くな。あの家からいっちばん離れている土蔵にはな」
 そこは、唯一お掃除がされていなくてケホケホしてしまう、何も置いていない土蔵でした。
 どうやら土蔵の中でも一番古く、壁も瓦もボロボロになってしまったので近々取り壊すらしいです。耐久性としてはまだ問題ないけれど、一応倒れたら危険だから、と釘を刺されました。
 念のため言っておきたいのですが、あたしはおじいちゃんの言ったことをわざと破って困らせたい系の孫ではないのです。約束は守るしご飯だって好き嫌いせず食べます。
 でも今回は好奇心のほうが勝ってしまったというだけの話。わざとではないのです。仕方なくです。
 さて。足を踏み入れたはいいものの、その土蔵にはなるほど確かに何もありませんでした。懐中電灯で入り口から照らしてみてもネズミ一匹見当たりません。大きさも他と変わらず、学校の教室を半分こしたくらいの大きさなので冒険のしようもありません。

 と、思っていたのですが。よく見ると床に小さな違和感を感じました。一面同じ色をした床なので気付きづらかったんですが、地下に繋がる小さな階段があったのです。
 足元に視線を落としながら階段を下りた先には、長い鉄の棒で囲われた部屋がありました。
 初見ではそれが何か分かりませんでしたが、全体を観察してみてようやくわかりました。
 牢屋だったのです。刑務所とかにありそうな人を閉じ込める鉄の檻が、そこにはありました。扉を開いて中に入ると、得も言われぬ恐怖があたしを包みました。
 引き返すために扉を開けようと――開かない。
 牢屋の扉が開きません。鍵なんてないはずなのに、さっきは触っただけで動いた扉が、今は一切動かないのです。
 そういえばおじいちゃんは立て付けが悪くなっている、とも言っていました。この牢屋も変形して、扉が開きにくくなってしまったのでしょうか。
「ねぇ、大丈夫?」
 後ろから、知らない男の子の声が聞こえました。
 もうあたしはパニック状態です。扉をひたすらに叩き、おじいちゃんの名前を何度も呼びました。けれども誰も答えてくれません。
 答えてくれたのは後ろの声だけです。
「怖がらないで落ち着いて。もしよかったら落ち着くために歌でも歌おうか、何がいい?」
 いや怖いよ。とは思いつつ、意を決して振り返りました。けれど、そこにはやっぱり誰もいません。
 あたしを怖がらせないためか、澄んだ舌っ足らずな歌声が牢屋の中に響きました。それが何だか心地よくて、身を預けて耳を傾けました。
「僕ね、ずっと一人きりなんだ。ずっとここから出られなくて、目を開けても何にもなくて――寂しい。だからね、また気が向いたら遊びに来てほしいんだ」
 言いたいことは言い終わったのか、ビクともしなかった扉が一人でに開きました。牢屋の中を見渡してもやっぱり人の姿はありません。彼の声も聞こえなくなってしまいました。

 翌日。またおじいちゃんの目を盗んで彼のいる蔵に遊びに行きました。
「まさか、本当に来てくれるなんて。嬉しいな」
 姿を見せない恥ずかしがり屋な彼は声を弾ませて言いました。
 確かに怖かったけど、悪い人じゃない気がしたのです。それに、悲しんでいる人には親切にしなさいとよく先生に言われていたので。
 本当はトランプやドッヂボールで遊びたかったのですが、姿のない彼とはできそうにありません。なので、お話をすることにしました。
 外に出られないと嘆いていた彼のために外で起きたいろんな話をしました。お友達との話や授業のこと。この前家族と行った山での天体観測についても。
 どうして牢屋があるのか、どうして閉じ込められているのか聞いても彼は口を紡ぎました。
 けれど、こんなことをボソリと言ってました。
「僕がいると、皆狂っちゃうから。だから表に出ちゃいけない。世界の敵だから、消えてなきゃいけない」
 悲しそうに彼は言っていたけれど、ふとあたしは思うのです。
 ――なら、あなたと話してるあたしも狂っちゃうんじゃないの?
 その謎は、一年間毎日毎日通い続けても解けることはありませんでした。
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