お題:めっちゃ仕事 必須要素:予備校 制限時間:30分 読者:83 人 文字数:1311字

校舎裏の二者面談 ※未完
 照明を消し、鍵をかけて予備校を出る。暦の上では秋とはいえ、さすがに寒さが堪える時期になってきた。コートの前を閉め、自販機でコーヒーでも買おうと校舎裏に回ると、ゴミ箱の横で暮香が煙草を吸っていた。

「お前ねぇ、普通そういうのは隠れて吸うもんだろう」
「隠れて吸ってるよ。こんなとこに来る知り合い、先生ぐらいだもん」
「俺からも隠れなさいよ……」
「先生みたいなお人好しからも隠れるような臆病者になったらおしまいだよ」

 思わず顔をしかめると、暮香は目を細めて楽しそうに笑った。同級生の前でもこんな風に笑えたら、もう少し彼らとの関係も良くなりそうなものだと思う。

「今のうちからそんな風にひねくれてたんじゃ、この先苦労するぞ。先生は心配だよ」
「違うんだよなぁ、先生。違うんだよ。今のうちにひねくれておかないと、この先苦労するんだよ」
「ほう?」
「私、ちゃんとわかってるんだよ。大人になったらちゃんとしないといけないってことぐらい。だから今は、今だけはやりたいようにやるの」

 灰を落とす暮香の目は、沈んでいるような、輝いているような、そんな微妙な印象だった。言葉を選ばないと壊れてしまいそうで、諭すに諭せない。とりあえずコーヒーを買った。当たりつきのルーレットがわざとらしく7を三つ揃える。最後の数字は案の定8だった。そんな些細なことに、俺は何となく苛ついた。

「えっとだな、今だけっていうのは、そんなに上手くいかないもんだぞ。人間は習慣でできてるんだ。変わろうと思ってすぐに変われるもんじゃない」
「そうなんだ。じゃあ私、こんなところ通うのやめようかな」
「なんでそうなる」
「だって、ここに通うのはまともな大人になるためでしょう。私、そんなのなりたくないもん」
「さっきは『大人になったらちゃんとしないといけないってわかってる』って言ってたようだが?」
「わかってるよ。だからそのうちちゃんとすればいいと思ってたけど、人間は変われないんでしょ。じゃあ、私はもう手遅れ。だからこんなところに金を落とすのはやめにする」
「悪くないもんだぞ、ちゃんと仕事して、ちゃんと自立する。ほら、先生を見てみろ。うちに通ってれば、こういう風になれるんだ」
「ぜったい、やだ」

 けらけらと声を上げて笑う暮香は、ひどく魅力的だった。そして、だからこそ思った。確かにこの子にとっては、まともに生きるというのが苦痛なのかもしれないと。

「先生、見て」

 暮香が空を指した。
 雲一つない秋の夜空は、どこまでも遠くて、美しかった。

「たとえば、こういう景色を見て『綺麗だな』って言えるだけでいいの。それじゃ、だめ?」
「だめとは言わないが、そういう余裕は生活を安定させてこそ手に入るものなんだ」
「それは先生の意見でしょ。ちっぽけな予備校教師の意見」
「まぁな。だが、お前より少しは長く生きてる」
「先輩面するのが仕事なんて、気楽なもんだね」
「どうかな。お前みたいな不良の相手もせにゃならんから、それなりに面倒だぞ」

 車の音、仕事帰りの男たちの雑踏。そういうものが遠くに聞こえるこの場所は、













作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:.°⑅ʚɞ⑅°.ゅにぇる.°⑅ʚɞ⑅°. お題:めっちゃ仕事 制限時間:1時間 読者:158 人 文字数:916字
時刻が二時をまわったことを確認してから、誰も起こさないようにゆっくりと静かに階段を降りる。真っ暗な部屋を確認してから、キッチンの明かりだけをつけた。白い明かり 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:うるさいローン 必須要素:予備校 制限時間:30分 読者:48 人 文字数:1734字
教室の机につっぷしてうとうととまどろんでいると、不意に周囲が真っ暗であることに気付いた。どうりで眠くなるわけだ。目をこすりながら、自分以外に人の姿のない教室を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:椿英 お題:君と何か 必須要素:予備校 制限時間:30分 読者:38 人 文字数:1103字
僕と君の接点は、一日のうちで30分もないだろう。講義の間にあるわずかな時間で、僕らは何かを見つけなければいけない。君はきっと興味がないだろうから、頑張るのは僕 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ハチマル お題:隠されたつるつる 必須要素:予備校 制限時間:30分 読者:44 人 文字数:578字
我々は、予備校で教師をしている。そして現在は、もうすぐ1月を迎えようとしている年末である。この時期、我々も、生徒達も酷くセンシティブになっている。秋頃に発表さ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:かたぎり お題:最弱の視力 必須要素:予備校 制限時間:30分 読者:39 人 文字数:863字
これはなんとも不思議な昔話昔あるところにウサギがいました。ウサギは何でも一番をとっていて動物界で人気でした。そこへカメが現れました。カメは言いました。ウサギさん 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:鐘辺 完 お題:煙草と犬 必須要素:予備校 制限時間:30分 読者:158 人 文字数:1429字
草を燃やして煙を出す「煙草(けむりくさ)」というものがあるらしい。 予備校の先輩の桑山さんがそういう趣味があるという。「けむりくさな。初心者にはタンポポお勧め 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:キルユーベイベー お題:阿修羅蕎麦 必須要素:予備校 制限時間:30分 読者:92 人 文字数:683字
「それではーー起立、礼」「おつかれー」午後八時。予備校が終わった。「んじゃ、行くか」「おう」俺は友人のゆうしと一緒に予備校を出る。行き先は目の前にある阿修羅蕎麦 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:まろやかに傾く人 お題:素晴らしい円周率 必須要素:予備校 制限時間:30分 読者:113 人 文字数:450字
鉛筆、シャープペンシル、ボールペン。 形が違えどその用途は頭の中の情報を記述するため。 予備校の授業の景色としてはそれらは珍しくない。 だがよくあたりを見回せ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:煉獄に沈みつつあるリケリケ お題:真実の朝飯 必須要素:予備校 制限時間:30分 読者:164 人 文字数:650字
「お早うございます。」 私は貴方を軽やかなメロディで起こします。「お……はよう。」 貴方はいやいやながらも素直に起きてくれました。嬉しいです。「今日の予定は8時 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
いきしちに ※未完
作者:匿名さん お題:暗いサッカー 必須要素:予備校 制限時間:30分 読者:186 人 文字数:4字
あかあさ 〈続きを読む〉

らびの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:らび お題:君の笑顔 必須要素:ゴキブリ 制限時間:1時間 読者:19 人 文字数:1848字
伸びきった髪をかき分け、彼女は今日もブロック状の食べ物を口に運ぶ。ボロボロとカスを落としながら食べる。それは私にとってごちそうだけれど、人間を動かし続けるには 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:らび お題:最弱の妄想 必須要素:パーカー 制限時間:1時間 読者:34 人 文字数:1555字 評価:1人
僕のような典型的なナードにとって真夏の海ほど危険な場所はないわけだけれど、じいちゃんの店の手伝いを頼まれた以上、僕に逃れる術はない。ここで水着姿のクラスメート 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:らび お題:気持ちいい正義 必須要素:もみあげ 制限時間:1時間 読者:24 人 文字数:1987字
もみあげが、異常に立派であること。それが、花の女子高生である私の、当面の悩みだった。 髪を切ると、その日の夜にはもみあげだけが胸のあたりまででろんと伸びている 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:らび お題:知らぬ間の真実 必須要素:ボールペン 制限時間:1時間 読者:37 人 文字数:1956字
不安になるとボールペンをノックし続ける癖がある。例えば、会社で激しく叱責された日の夜。つまり今。 特段心が平穏になるということもない。ではなぜ動悸が激しくなる 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:らび お題:もしかして壁 必須要素:コショウ 制限時間:1時間 読者:27 人 文字数:1707字
幼馴染のトレイシーと、10年ぶりに顔を合わせた。路地裏の小さなバーに入り近況を尋ねあう。今は小さな劇場で女優をやっているらしい。「なんだか、違う世界の人間にな 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:らび お題:苦し紛れの男 必須要素:靴紐 制限時間:30分 読者:81 人 文字数:1262字
短いスカートを履いた女性をつけるのが私の日課である。したくてしているのかと言えば、半分はそうで半分は違う、ということになるだろうか。「少々長すぎたようですね」 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:らび お題:今の団地 必須要素:右肘 制限時間:30分 読者:77 人 文字数:1210字
引っ越しには電車を使う。団地の目の前に駅があって、そこに留まる灰色の電車に乗って僕らは団地間を移動する。 引っ越しをする理由はよくわからない。ずっと昔、まだ生 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:らび お題:恥ずかしい恋 必須要素:バイブ 制限時間:30分 読者:66 人 文字数:1027字
マンガ喫茶におけるカップルシートの存在意義に思いを馳せる。わざわざ「カップル用」と銘打った半個室を用意しておきながら、行為に及ぶのを禁ずるというのは残酷である 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:らび お題:めっちゃ仕事 必須要素:予備校 制限時間:30分 読者:83 人 文字数:1311字
照明を消し、鍵をかけて予備校を出る。暦の上では秋とはいえ、さすがに寒さが堪える時期になってきた。コートの前を閉め、自販機でコーヒーでも買おうと校舎裏に回ると、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:らび お題:近い昼食 必須要素:群像劇 制限時間:30分 読者:86 人 文字数:984字
公園に吹いた風が前髪を激しく揺らす。そろそろ切らなければとは思うが、散髪にも金がいる。現在無収入である俺には、1,000円カットさえ敷居が高い。自分で切るしか 〈続きを読む〉