お題:来年の粉雪 必須要素:資料 制限時間:1時間 読者:28 人 文字数:3109字 評価:0人

鐘と花火と粉雪と
「今なにやってる?」
「べんきょー」
「嘘だな」
「本当だって」
「ひと段落とか考えて、そのまま本格休みに入るパターンだと見た」
「見てもいないくせに言い当てるなよ、あたしが休みにくくなるだろ」

通話装置に向けて、あたしはため息をこぼす。たまに本当にコイツは見ているんじゃないかと思えるほど勘が鋭い。

「そういうそっちは?」
「むろん、勉学に励んでいるとも」
「こんな時期に?」
「こんな時期だからこそだとも」
「……クソ、なんか書く音が聞こえる。本当にやってるとか酷いことするな、お前」
「こっちが勉強していたら、そちら何か損があるのか?」
「あたしも何かやらなきゃいけない気分になるだろ」
「いいことじゃないか」
「せっかく一休みして、本の続きを読もうとしてたんだぞ? これ中断しなきゃいけないとか、どんな拷問だ」
「いいぞいいとも構わないとも、とっとと読めばいいだろう」
「含み笑いしやがって、お前の、ええと、なんだっけ? シャーペンとかって奴が動く音聞きながら本を読むのは、なんか負けた気分になるんだよ」
「勝ちか、うん、いいな。勝利はいつでもどんな場合でも気分がいい」
「あ? 勝手に勝利宣言してんじゃねえぞ」
「初手からそちらが敗北宣言をしたのだろうに、いや、敗北予告かこの場合。ともあれ、人のいい君のことだ、こちらの暇つぶしくらいには付き合え」
「お前、さては暇だな?」
「だからそう言っているだろう」
「というかさ――」
「うん?」

わたしは目の前の、誘惑を続ける新刊本の上に資料をドンと乗せて封印しながら、若干の呪詛を込めて言う。

「喋りながら勉強とか、できるもんなのか? 頭の中になんにも入って来なくないか?」
「ふふん、頭の出来が凡人ならばそうなるだろうな、少しのコツがあれば効率を落とさず、むしろメンタル面ではより良い影響を保持しながら勉学を行うことができるのだよ」
「なんだよ、あたしが我慢してるのに、そっちだけは気晴らしできるのかよ」
「だから言っただろう?」
「なんて」
「こちらのことなど気にせず、とっとと本を読めばいいと」
「……おまえ、わかってたけど性格悪いのな」
「これほどまでに人類愛に溢れているというのに、なぜかそのような評価を下す輩が多いことは、実に嘆かわしいと常々思っているよ」
「単なる事実だろうがよ、受け止めとけ」
「ハハ、歴史上のいかなる偉人ですらも頭を垂れて自らを恥じるともっぱらの噂のわが愛を知ればきっと君とて水酸化ナトリウム水溶液」
「なんて?」
「……ただのミスだ、気にしないでくれたまえ」
「あ、混乱したんだな? 勉強してたのとなんか混じったんだな? うっわ、お前――」
「なんだねなにかねなにが問題なのかね、そういえばこの答えなんだったんだろうかなと考える割合がほんのちょっとだけ増えて言語野を若干浸食しただけの事柄がそんなにも君の横隔膜を震わせるというのかね、それは君少しばかり人類愛に欠けた――」
「ダッサ」
「今すぐ君を殴りに行きたい!」
「人類愛どこ行った?」
「たまには奴にも休みが必要だ!」
「まあ、こんな日なら必要かもな。というかお前、今勉強できてなくね?」
「…………そんなことはないとも、うん」
「さっきから書く音が聞こえてないけどな」
「充分に時間をかければ視覚情報の方が長期記憶に残りやすいのだよ」
「あたしの音声情報で邪魔しちゃる」
「やれるものならやってみるがいい」
「挑発しやがる」
「割と真面目な話をするとだね、今のこの時間帯では君以外に通話できる相手がいない。まあ、君が迷惑でないのならば付き合ってくれたまえ」
「偉そうなんだか腰低いんだかわかんねえな」
「よく言われる」
「ところでさ」

あたしは、音を出す水晶を撫でながら。

「そっちはすまほ?とかって奴で会話してるんだっけ」
「そうだな、そちらは原始的な道具だったか」
「魔女に水晶球はつきものだろ」
「未だに君が魔女などというものであることは、異世界と連絡が取れていること以上に信じがたい」
「ほー?」
「というよりもだ、前にも述べたが君が実は誇大妄想狂の変人であると考えた方がつじつまは合うのだよ。君自身が良い奴であることは認めるが、それと君の現実把握能力との間には少しばかりのズレがある可能性はありえる」

言ったな?

「なあ」
「なんだね」
「おまえの周りに今、他に人っているか?」
「どうしたのかね突然、ふむ、今は夜も遅い、外では雪まで降っている。何がしたいかは知らないが、他の者が聞くことは無いと予測できる」
「それでも万一ってこともある、ちょっとそのスマホとやらに耳を近づけてくんないか?」
「むむ?」

様々な、こっちでは聞きなれない音が幾つかしていた。
それでも、物と耳が接触する音だけは変わらない。

あたしは――私は、目を閉じ、意識を集中させる。
本当に、すぐ傍に対象となる相手がいるように、その耳が本当に目の前にあるかのように、リアルに、精緻に、揺らぎなく維持したまま想定する。
手に触れた水晶の、その先にいる相手を想う。
生真面目な顔、眉間に皺が寄っている、外では粉雪がちらちらと降り、暗い室内を机の上と彼の顔だけが照らされている。
難しい顔で、待っているその耳、その鼓膜に向けて、優しく、ほんの微かに揺らすように――

「Vetus quomodo sanies signeficatur Tacita deficta――」

割とガチ目の呪いを吹き込んだ。

「な、はあ!?」
「お、成功? 成功した?」
「君いま一体なにをしたというのかね!?」
「世界とか跨いでも、呪いって効くものなんだなあ、音声さえ届けば可能ってことか。割とこれ、重要な発見じゃね?」
「突然何の前触れもなく、ものっすごく気分が悪くなっているのだが!」
「うん、体調不良になる呪いだし」
「君ぃ!?」
「すぐ収まるもんだから安心しとけ?」
「まったくもって安心できないのだがぁ……!」
「寝具が近くにあるのかどうか知らないけどな、お前、ちょっと根を詰過ぎだろ、休めるときはきっちり休んどけ」
「……こちらに休息を与えるために呪いを振り撒く奴がどこにいる」
「あたし魔女だし?」
「むしろ今となっては悪魔と思える」
「そんなに褒めるなって」
「本気で君が照れている理由がわからない」
「ちょっとした眩暈くらいのもんだろ、今の状態。あたしが子守歌でも歌ってやるから、そのまましばらくは目を閉じてろ」
「更に呪われる予感しかしないのだが?」
「あたし今リクエストされてる?」
「曲解はやめてもらおうか……!」
「えー、でも――」

あたしは窓の外を少し見る。こちらも冷えているせいか雪が降り始めていた。
細かいこれは、やっぱりこちらも粉雪だろうか。

あともう少しすれば、新年を祝うための花火が上がる。
向こうではなんだか辛気臭い鐘を鳴らすのだという。

「年をまたぎながら魔女に呪われるのって、ちょっとロマンない?」
「そんなロマンは不要だ――」
「遠距離呪詛って、割と魔女の憧れなところあるんだよ、もうちょっと付き合え」
「こちらがまったく知らないワクワクに付き合せようとしないでくれないか!?」
「えー」
「君、楽しんでいるな?」
「お互い、いい休憩になったでしょ?」

そんなわけが無いだろう!?――そんな声を聞きながら、こちらでは花火が上がり、向こうでは鐘が鳴っていた。
あたしは水晶に耳をつけながら、向こうのその音と、あいつの声を聴いていた。

作者にコメント

対戦作品一覧


ユーザーアイコン
作者:にい お題:来年の粉雪 必須要素:資料 制限時間:1時間 読者:28 人 文字数:2824字 評価:2人
しゃんしゃん、とステッキを振るだけで、虚空から雪の結晶が生み出された。机一面に降り注ぎ、黒い斑点が広がっていき、やがては白く降り積もる。パウダースノー。長くは 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:来年の粉雪 必須要素:資料 制限時間:1時間 読者:45 人 文字数:2720字 評価:2人
雨よりも、雪が嫌いだ。 窓を叩く雨粒も、車軸を流すような雨も、息が詰まるようなどしゃ降りも、まったく好きではないけれど、それでも雪よりはマシだった。 雨は全部 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:来年の粉雪 必須要素:資料 制限時間:1時間 読者:31 人 文字数:2377字 評価:0人
「あー、十一月も三日も過ぎたらハロウィン感はだいぶなくなるなあ・・・」今年のハロウィン沙汰も様々な事があったようである。軽トラが横転したり変態仮装行列っていうワ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:来年の粉雪 必須要素:資料 制限時間:1時間 読者:28 人 文字数:3109字 評価:0人
「今なにやってる?」「べんきょー」「嘘だな」「本当だって」「ひと段落とか考えて、そのまま本格休みに入るパターンだと見た」「見てもいないくせに言い当てるなよ、あた 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:** お題:来年の粉雪 必須要素:資料 制限時間:1時間 読者:14 人 文字数:1874字 評価:0人
誰かの手が、まるで伝書鳩のように私の肩にポンと乗った。午後のまどろみから目覚めさせてくれた若い男性。彼は私立探偵である。「だいぶお疲れのようで」彼の労りの言葉 〈続きを読む〉

inoutの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:inout お題:昨日食べた狼 必須要素:ご飯 制限時間:1時間 読者:27 人 文字数:3103字 評価:1人
鬼は、昨日食べた狼のことを思い返していた。オーガ亜種とされる鬼はモンスターの一種であり、食事と言えば通常の意味での食事ではない。戦い、倒し、生体の形を解き、取り 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:やば、帝王 必須要素:右肩 制限時間:1時間 読者:21 人 文字数:3671字 評価:1人
帝王があの町のどこかにいるらしい、そんな噂があった。バシブサンという片田舎、主要な交易行路からも外れている、特産品といえば長閑な景色くらいの、なんの変哲もない場 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:来年の粉雪 必須要素:資料 制限時間:1時間 読者:28 人 文字数:3109字 評価:0人
「今なにやってる?」「べんきょー」「嘘だな」「本当だって」「ひと段落とか考えて、そのまま本格休みに入るパターンだと見た」「見てもいないくせに言い当てるなよ、あた 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:反逆の宿命 必須要素:右肘 制限時間:1時間 読者:27 人 文字数:2794字 評価:0人
馬鹿のような笑いが突然に収まった。いや、俺自身が、自分で止めたのだ。見れば寮の床に這いつくばる奴の姿が見える。周囲の俺の取り巻きをしている奴らが、つい先ほどまで 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
志願兵の歌 ※未完
作者:inout お題:どす黒い経歴 必須要素:繊細な心理描写 制限時間:1時間 読者:52 人 文字数:4113字 評価:1人
この経歴は何かって?見りゃわかるだろうよ、真っ黒だ。言っとくけどな、俺はちゃんと書いたんだぜ? それを塗りつぶしたのは、お前のところのお偉い誰かだよ。でっかい業 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:彼と恋 必須要素:漫画 制限時間:1時間 読者:67 人 文字数:3278字 評価:2人
恋とかただの錯覚だ。強がりでもなく諦観でもなく、淡々と彼はそう言った。そんなどうでもいいことなんて、どうでもいいんだから、とっととタマネギ切れ、俺は涙出て無理な 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:かっこいい洞窟 必須要素:脂肪吸引 制限時間:1時間 読者:42 人 文字数:2565字 評価:1人
『そこ』では全方向から黒い針のようなものが突き出ていて、仮にここを通るとなれば、相当に苦労するのは確実だった。なにせ、全方面すべてが「生きて」いる。前を立ちふさ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:近い蟻 必須要素:文末は全て「!」 制限時間:1時間 読者:52 人 文字数:3303字 評価:0人
「やあやあ、まずは来てくれて感謝したい、などと言うと大仰すぎるだろうか、それでも君がこうして校舎裏などという寂れた場所にまで来てくれたことについて吾輩は大変に感 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:僕の宇宙 必須要素:純文学 制限時間:1時間 読者:50 人 文字数:3242字 評価:1人
僕は宇宙をまたにかける凄いヒーローで、手にした銃はすごい威力で、この公園は僕のものだった。「だから出てけ!」白いお城とお花畑となんか美形の奴がいるような『領域』 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:捨てられた不動産 必須要素:日本人使用不可 制限時間:1時間 読者:50 人 文字数:2883字 評価:0人
「……なあ」「なんでしょう」「あれはいったい、なんだ?」「長城ですよ?」「それはわかってる。そうじゃなく、あれを、一体どうやって設置した?」「不動産法ですよ」「 〈続きを読む〉