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お題:来年の粉雪 必須要素:資料 制限時間:1時間 読者:15 人 文字数:1874字 評価:0人

あなたに降り積む雪になりたい
 誰かの手が、まるで伝書鳩のように私の肩にポンと乗った。午後のまどろみから目覚めさせてくれた若い男性。彼は私立探偵である。

「だいぶお疲れのようで」
彼の労りの言葉のように、私の顔からは血の気が失せていた。
「それでお分かりになったのですか?」
私が尋ねると、彼は柔和な顔に笑みを浮かべた。
「この資料によりますと、確かにY市に住んでいることは間違いありません」
「それで?」
私は興奮のあまり上気し、唇の端に唾液の泡まで浮かべてしまった。
「残念ながら、それ以上のことは分かりませんでした。申し訳ございません」
その言葉は不意打ちだった。思い切りジャンプする前の一瞬のようだった。抑えきれなくなった感情を抱え、私は頭の中で、岩山にそびえる城に引きこもった。砂にズブズブと足が沈み込んで行く中、私は新たな人生の土台を急いで築かなければならなかった。

 私は人を探していた。仮にTさんとしておこう。彼とはSNSで知り合い、一度電話をして言葉を交わし、それから彼は行方不明になった。私の日記に優しい言葉をいつも書き込んでくれたのが彼だった。

 彼は頭脳明晰、容姿端麗、他者愛に満ちた人である。その反面、黒い部分があるのも知り尽くしている。それでも私は彼のことが真剣に好きだった。過去形ではなく、今も好きだ。でも私は彼がどこの誰であるのか、結局のところ、全く分からない。私に近寄ってくる人に虱潰しに会っていっても、彼には辿り着かない。

 彼の周りにはきっとたくさんの女性がいることだろう。そんなことはわかっている。私が彼の彼女にはなれないことも、結婚できないことも、彼にとって私の存在なんてなんでもないことも。それでも、実際に会って、彼の雰囲気を感じ取りたいと思うのは私のワガママだろうか?

 いつも寝る前に彼のことを想う。想うだけは自由だから、勝手な妄想をする。来年の冬はきっと粉雪が舞う中を二人で手を繋いで歩いている。周囲には誰もいない。粉雪はやっと巡り会えた私たちを祝福するように、そっと降り注ぐ。彼のコートに待ってきた雪はそっと溶けてゆく。私のコートに舞う雪もそっと溶けてゆく。私たちもやがて溶け合って、お互いを今まで以上に理解し合う。そんな妄想を毎日のようにしてしまう。SNSで知り合った、いや、まだ知り合ってもいない人に対して、そんな願望を持ってしまう私は頭がおかしいのだろうか?

「そうですか? やはり分かりませんかね」
私は大きなため息をついた。ついた後で、慌てて口を手で抑えた。
「お力になれなくて、すみません」
若い探偵は平謝りに頭を下げる。
「想定内のことです。あなたは悪くありません。こちらこそすみませんでした」

 私は帰途に着いた。彼を探して、どちらの方角に歩いていいのかは、もうさっぱり見当がつかなかった。彼という人間は本当に存在するのだろうか? 最近はその根本まで疑い始めている。

 眠りに就く時に彼の顔を思い浮かべる。写真だけで見た、真剣な顔。とろけるような笑顔。そんな彼に向かって、独り言のように私は呟く。
「どうか、あなたが幸せでありますように。充実した人生を送られますように」
結局、私は祈ることしかできない。祈りが私にとって、愛そのものだった。

 できれば私が来年の冬、粉雪になってあなたの身に舞い降りたい。どうせ溶ける運命だけど、ひと時でもあなたを幸せな気持ちになるように包みたい。粉雪が羨ましい。

 ただ一目顔を見るだけが望みだった。それ以上のことは何も望んでいなかった。今も望んでいない。私は束縛するのが嫌いだから。どこにいても自由でいてほしいから。それ以上のことを望む資格も何もないから。

 これが私のTさんに対する全ての気持ち。

 幸せでいてください。
 明るく前向きな人生を送ってください。
 いつも自由でいてください。
 楽しんでください。
 安らいでください。
 たくさん笑っていてください。
 悲しく寂しい時は一人で抱えないでください。
 癒されてください。
 たくさんの人に愛されてください。
 人生が終わる時、いい人生だったと思えるような日々を送ってください。

 私が死ぬ時は、神様に粉雪になれるようにお願いしよう。そっと彼の肩に降り注いで、彼を見守りながら溶けて行く幸せな運命になれるようにと……。

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