お題:反逆の宿命 必須要素:右肘 制限時間:1時間 読者:89 人 文字数:1439字 評価:0人

依頼の後
 昼過ぎから降り出した雨は、未だに止む気配もなく、煤けた街並みを白煙に包んでいる。
 私は一軒の宿の前に立っている。店のドアを開くと、ガラガラと鈴の音が鳴り響いた。
「おー、遅かったじゃねえか。ったく、待ちくびれたぜ」
 私はその呼びかけに手ぶりで返しつつ、ローブと剣を壁に掛けた。
 四人掛けのテーブルには、先に到着していた三人が座っている。
 私から見て、右側の奥に隻眼の女射手と、手前には痩せた槍使いの男。
 空いているのは、今私の正面にいる、山賊じみた大男の隣。
「あんまりにも遅いから、先に山分けするところだったよ」と痩せ男。
「……残念だったね、取り分がさらに減って」
 一足先に酒を注文していた、隻眼女がコップに口をつける。
「一体何やってたんだよ? お前が一番乗りだっただろーが」
「野暮用だ」と大男に答えつつ、その後ろを通って席に座る。
 私を含めた四人は、先ほど受けた野党の討伐依頼を終え、帰還したところである。
「ででで、取り分はどうするんで?」
「仕留めた数でいいんじゃないの、分かりやすくて」
「……好きにすればいい」
「ってことは、一番多いのは剣士の嬢ちゃんだな」
 と、取り分が決まりかけた時、痩せ男が「ちょちょ待てよ! それじゃ――」
「ご注文はお決まりですか?」
 大男が肉料理と穀物酒、隻眼女が追加の果実酒。不満顔ながらも、痩せ男は食事と水を注文した。
「あんたはいいの?」
「今来たばかりで、どう決めろと?」
「そりゃそーだな……じゃ、ねーちゃん、俺と同じのを追加で」
 立ち去る給仕の背に視線を向けつつ、隻眼女が一言。
「いいのかい?」
「ああ……それより、取り分はどうする? 一人不服があるようだが」
「当然だろ! おでがとってきたもんだ、おでが決める」
「だ、そうだが?」
「まあ、確かに、そうなんだがよぉ」
 大男が腑に落ちないのも、分からないでない。痩せ男は一番活躍してなかったのだから。
 男二人が言い合いをしている間、隻眼女は黙々と酒を飲んでいた。
 料理が運ばれてくる。
「おおお、来た来た。あ、こっち、こっち置いてくれ」
「お前ら二人も黙ってないで、なんか言えよ。コイツ、取り分ギる気だぜ?」
「……別に」と隻眼女。
「じゃじゃ、決まりだな。取り分は、っととと、っぶねーな!コラ!」
 酒をこぼしそうになった痩せ男が、客に怒鳴る。
 と、直ぐに上機嫌に戻り、「こうこうこう、でいいな?」
「待てよ! 明らかにてめーの分が多すぎるだろ! っつか俺のこれっぽっちか!?」
「あんた大して訳だってないだろー」
「アジトのドアぶち破ったの誰だと思ってんだよ!」
 再び、口喧嘩を始める男たち。私の前に座っている隻眼女が、質問をしてくる。
「で、アンタが遅れた理由って何だい?」
「……取り分が決まったら解散だし、別に構わないだろう」
 隻眼女が、目を細める。
「当ててあげようか? 追加の依頼でしょ? 乗りかけた船だ、一緒にやろうよ」
 男たちが口を止め、私に視線を集める。
 どうやら、ごまかしは聞かないようだ。テーブルから手を下ろしつつ、答える。
「夜盗の残党がいる、と密告を受けた」
「……特徴は?」
「右肘を怪我している」
「だ、そうだけど。そういえば、アンタ……何でテーブルの端にコップ置いてんだい?」

 雨は止む気配もなく、煤けた街並みを白くけぶらせる。
 その雨は、一角にある宿屋の喧騒をも、静かに包み込んでいた。
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