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お題:緩やかな模倣犯 制限時間:15分 読者:29 人 文字数:1577字

入眠 ※未完

 夢が始まった瞬間に、これが悪夢であることはすぐに分かった。あなたの姿があったので。

 *

 おぼろげな霧の向こうに一人ぶんの影が淀んでいる。川べりにたまったそれは、それほどよい見た目をしていない。わたしは小さく首を振って、ため息をひとつこぼし、やれやれと一人ごちてみせた。本当は呆れてなんていないし、ため息をつきたくなるほどの感傷も持ち合わせていない。でも、むかしはそれらを知っていた。だからわたしは「こういうとき」には人は溜息をつきたくなるものだと、感覚ではなく経験で知っている。
 空しいような、しかし何もないような。
 不思議な感覚だった。

 空白。

 こころのなかにそれが生まれたのがいつだったのか、わたしは覚えていない。
 雛がエサを丸呑みするように周囲の人間の言葉を信じるなら、約三年ほど前から。
 始まりのころは、これほど酷くはなかったように思う。ただ、いつもなら楽しめるはずの音楽にたいし、なんとなく心が動かなくなった。普段なら面白いと思えそうな本を、読み進めるのがつらくなった。
 とはいえ、それは悲しみではなかったし、一時的な不調だろうと、わたしは楽観的に受け止めていた。というよりも、いまも楽観的であり続けている。
 たとえるならそれは、嵐の前にほんのすこしだけ海が静かになるのに似ていて、遠くから潮騒がするのに、鳥の姿はなく、ヤドカリたちも消えうせていて、砂浜のうえには人っ子一人いない。
 胸を魔剣で刺されるような痛みでも、体中が光子になって吹き飛んでしまいそうな圧力でもない、ただ、しずかな退屈としずまる波の単調さが、わたしのなにかを殺していた。いまではもう、わたしにこころがあるなんて、口が裂けても言えたものじゃない。
 あなたの姿を認めて、わたしはもういちどため息をつく。もしもあなたに耳があったら、わたしの溜息をすぐに見つけて、きっと嫌そうに笑っただろう。そうすればひょっとするとわたしの心ってやつも多少は息を吹き返して、あなたに笑いかけたかもしれないのだ。なんて。
 ありえないことを楽しくおしゃべりしている場合じゃない。
 わたしはあなたに向かって一歩、一歩と、タッタ歩いてゆく。あなたは顔をあげる。わたしのことを知らなさそうな顔をしている。あなたはだれ、とでも聞かれたら、わたしも多少は傷つくだろうと考える。わたしはあなたを見ている。見ている――。
「きみは」
 だれ、と聞かれるまえにわたしは、
「――だよ」
 と答えた。
 あなたに名前を聞かれる女になりたくないというのが、わざわざ急いで口を挟んだいちばんの理由だった。
 ときたまに会いたい男というのがいるとして、恋愛関係ではないのだけれど、でもたまには顔を見ておきたい男がいるとして、かれに連絡をとるときに、わたしたちはひょっとすると忘れられていやしないかと、すこしだけ心配をする。その心配をよそに、あいてから嬉しそうな連絡が帰ってきたときにも、あるいは、誰だっけと言いたげないっそ丁寧で礼節ある返事がきたときにも、どちらもわたしにはつらい。
 ひとつでも、あなたとの関係のあいだで再利用できるものがあればいいと望んでいる。でも、それをわたしはいまのところ見つけられていなくて、あなたが見つけてくれる気配もいまのところない。なんとも味気ないものだ、と思う。わたしはあなたの姿を見ている。空白を抱えながら。
 そしてこの場所が夢だったことをわたしは思い出す。
 夢だから、つまり空は飛べるし、あなたと会話もできる。ひょっとしたらここにいるあなたはわたしの想像のなかのあなただから、わたしに酷いことを言わないのかもしれないし、あるいはあなたを観測することで、わたしが望むあなたというやつを知ることができるかもしれない。人は誰しも、自分にとって希ど
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