砂漠のトカゲ
「人間至上主義の街」と言われるだけあって、アイソスには亜人の冒険者は少ない。
人型のエルフやドワーフはともかく、獣人種は本当に数えるほどしかいない。
そんな数少ない獣人種の中でも、リザードマンはレプという青年一人だけだった。
「アイソスは獣人を差別している。現にここには獣人の住人が少ない」と、獣人の地位向上を訴える団体は、この街を「野蛮なレイシストの街」と評した。
だが、レプにしてみればこの街は「差別的」なのではなく、「無知」なだけに映った。
というのも、このアイソスに獣人が少ないのは地理的な影響が強い。獣人の中でも大多数を占めるのが、ワードッグ族とワーキャット族であるが、彼らが棲家にする大きな森林がアイソスの近くにない。
アイソスは砂漠の街なのだ。砂漠に住む獣人種はいない。毛皮を熱く着込む彼らには、砂漠の昼は地獄のような環境だ。対して、毛皮を持たない人間は様々な環境にでき応する。この街はオアシスを中心に人間が発展させ、人間のための街として出来上がったのだった。
そして、元々の環境の悪さも手伝い、亜人の出入りも少なく、結果的に人間ばかりがこの街の歴史に名を刻んだ。亜人が来れるようになったのも、ある程度交通網が発達するようになったこの10年ぐらいの出来事である。
「へー、リザードマン? 火を吹くの?」
この街に来たての頃、レプはよくそう言われた。
「いえ、竜人ではないので火は吹かないですね」
一日に何度もこのやり取りをした。
リザードマンというのは、どちらかというと湿地帯に住む一族だ。レプの故郷も大きな湖沼のある地域だった。毒のブレスを吐く種類もいるが、それらは魔物に近い「共通語」が通じない連中だ。
ある時、別の人間にまったく逆のことを尋ねられた。
「リザードマンってことは湿地帯に住んでるのよね? 砂漠暑いし、水のブレス吹いてくれない?」
「水は吹かないですね。水を汲んできてもらえば、ブーって吐き出したりしますけど」
そういうと相手は肩をすくめて笑った。
「でも湿地帯に住んでるんだったら、砂漠は辛くない?」
「大丈夫です。この鎧が守ってくれてるんで」
レプは着込んでいるブレストアーマーをウロコのある手で撫でた。リザードマンの間では知られたブランド物のアーマーである。
「へえ、そんな装備があるんだね」
レプは曖昧にうなずいておいた。実はこの装備のテストのために、レプはこの街に派遣されてきたのだった。あらゆる環境に適応できるようにと開発されたそれは、対人間のための装備だった。
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