お題:激しいプロポーズ 制限時間:30分 読者:75 人 文字数:2377字

ステージにあがらない
高校三年の文化祭というのは、どうやらみんな、人生のいちばんおいしいところだと思っているようなのだ。
俺はそんなことをうんざりしながら考える。時期は五月、まだ受験生という感じはしない。二年の時に文理でクラスが別れて、二年から三年はそのまま持ち上がりになるから、四月にかすかにあった新しい空気、みたいなものも霧散してしまった。去年の続き、みたいな、慣れた顔が慣れた会話を繰り返す、そんな空間になりはてつつある。
そしてそんな馴れ合いめいた空間で話し合われているのは、この度の文化祭で自分たちのクラスが何をするか、という、ごく馬鹿馬鹿しい話題だ。
高校三年生だぞ、三年生といえば、18歳になる。男女ともに結婚だって認められる歳なわけで、そんないい大人が何を文化祭だ、と考えているのは俺くらいのようだ。クラスメイトはみなやいのやいのと案をあげては何やら言い合っている。
文化祭、生徒会でも日々話題に上がっている。
うちは進学校ではあるが、そういったイベントは生徒たちの息抜きとして割合活発にやるほうだ。だから文化祭なども、OBOGの他、他校や中学生、在校生の家族の他に地域の人たち、エトセトラエトセトラが集まってそれなりの規模になる。
生徒会としても、我が校を世間にアピールするまたとない機会だからと顧問の張り切りようもあって、そのうえ今期生徒会の最後の仕事となるから、俺としても意気込みがないわけではない。これを終えれば、生徒会役員選挙が行われて新しい役員が決まる。俺は3年だから投票権はあるけれど、出馬する権利はない。
結局、俺は生徒会にはなれなかった。あの男のせいだ。
俺は自分より二つ前の席に座る男の頭を眺めた。まるい頭をしている。綺麗に梳られた黒い髪は奴の几帳面さの現れだろう。
小鳥遊小鷺。俺と同じクラス、俺と同じく生徒会で、俺と違って生徒会長の座に座っている。
俺は去年の選挙でこの男に僅差で負け、副会長に甘んじることになった。苦い思い出だ。そうでなくても、この男には煮え湯を飲まされ続けているというのに。
「黒葛、また小鳥遊見てたのか」
「うるさいな」
隣の席に座っている阿呆の貝塚が声をかけてくる。野球部の貝塚はなぜか「俺が小鳥遊小鷺に懸想している」という哀れな妄想に取り憑かれているかわいそうな奴だが、同情していたらわけのわからない噂を流布されるだけなので優しくする予定はない。
「そんなに好きなら素直になればいいのに」
「この上なく素直にしているつもりだが」
「またまた〜、ツンデレにしても限度があるよ」
「誰がツンデレだ」
ツンデレ、とここしばらく言われ続けているのでその単語の意味を覚えてしまった。つまり「他の人の前ではツンツンしているけれど、二人の時はデレデレ」の略なんだという。他にも諸説あるらしいが、だいたいこんな意味だ。
一言言いたいのだけれど、君たちはそんなに暇なのか?今、大事な時期をそんなくだらない妄想と噂話に費やして無駄だと思わないのだろうか。呆れかえる。
誰が小鳥遊にデレデレなどしたのだ、誰が。
黒板では司会が案の取りまとめに入っていた。どうやら劇かミラーハウスか、の二択になるようだ。なぜ文化祭でミラーハウスをしたがるのか理解に苦しむけれど、このクラスの人間は面白ければそれでいいという享楽的なところがあるので、そういうやつなのだろう、他のクラスと内容が被らないとかいう安直な考えかもしれないが。
「じゃあ多数決で決めましょうか」
進行が進む。この二択なら劇だろうか。
「黒葛はさ、なんで小鳥遊のことそんな毛嫌いするんだよ?生徒会でも毎日顔合わせてクラスも一緒だったら、ちょっとはいいところも見つかるんじゃねえの」
貝塚はこの議題にもうすでに飽きているのか、俺に話をふってくる。クラスの話し合い自体に意味を見出せないのは俺も一緒で、正直本を読むなり明日の予習をするなり有意義な時間の使い方をしたいものだが、それも他のクラスメイトの手前憚られるので仕方なしに貝塚に相槌を打った。
「毛嫌いなどしていない、ただ相性が悪いだけだ」
「そうかな、俺は二人の相性いいと思うぜ」
「君の目が節穴なだけだろう」
「仕事も息ぴったりだし」
「一年そうしていれば誰とでもそうなる」
「話し合いとかもツーカーじゃん」
「共有する時間だけは長いからな」
「……なあんでそう必死になって否定するのかね〜」
「必死になんてなってない」
貝塚が机の天板に頭をのせふてくされたように唇を尖らせた。そんなかわい子ぶった仕草をしても誰も喜ばないぞ、と思いながら俺は視線を前に戻す。いつのまにかクラスでの出し物は劇に決まっていて、議題は演目の検討に移っていた。
「この前さ、小鳥遊が壇上で倒れそうになったじゃん」
貝塚がぼそり、という。
この前というのは、多分先に行われた生徒総会のことだろう。あの時期は生徒会が忙しく、その上で三年になってから初の模試も重なっていたので、小鳥遊と俺含めて三年の役員は皆それなりに無理をしていた。だが、小鳥遊は会長ということもあってその比ではなかったのだろう、結局無理がたたって総会の最後に壇上で倒れそうになったのだ。
「あれさ〜俺感動したよ、今まで黒葛のことちょっとふざけてからかってたけどさ、本当に小鳥遊のこと好きなのかもって思った」
「気色悪いことを言うな」
「正直俺とか小鳥遊が体調悪いとか全然気がつかなかったのにさ、黒葛は気がついたわけじゃん、それってさ、すげくね?」
「……すごくはないだろう」
ただいつもより顔が青かった、無理をしているだろうということが背景から予想がついた、だからだ。別にすごいことではない。関心されるようなことではない。俺は黒い頭を睨んだ。二つ前の席の男は、振り向きもしない。



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