お題:彼女と雑草 制限時間:15分 読者:54 人 文字数:1332字

イタイイタイ二人と雑草魂
「ねぇ、岩下くんって何が好きなのかな?」
 ゆみみの問いにわたしは「え? わたしに聞いてんの?」とつい聞き返してしまった。
「そうだよ。ねぇ、岩下くんって何が好きなのかな?」
 肯定即繰り返し。どんだけ自分のことばっかり考えてんだよこいつは、とわたしは苛立った。
 梅平ゆみみは、そういう女だった。ゆみみというのはニックネームでもなんでもなく、本名、紛れもなく戸籍や学生証に記載されている名前だ。
 正直、脳みそのかなりの部分がお花畑でできているんだろうな、と思わせる名前だ。そして、梅平ゆみみはその通りの性格をしている。
 これを「かわいい!」という男もいる。男と女は、正直別の生き物ではないかと思うぐらいの見解の隔たりだ。確かに見てくれはいいが、中身は目に痛い極彩色の花が咲き乱れていて、とてもじゃないが「かわいい」なんてものからは程遠いように思う。
「ねぇ、何かな? 何が好きだと思う?」
 知らねーよ、と言いたくなる。そして、実際に知らない。
 岩下くんというのは、うちの学部にいる野球バカのことだ。坊主頭で、何か金属の棒をかつて振り回していたらしい。今も野球好きらしいが、別に体育会の野球部に入っているわけでもなく、ただただ「どこそこのチームは監督の采配が悪い」とか「どこそこのチームはコーチが無能で若手が育たない」、挙句「あんなんでプロなんだったら俺の方が上手い」などとほざく始末だ。
 自称「俺は甲子園にも行った高校球児」とのことだが、それがウソだということはとっくにバレている。そういうイタイイタイなのであったな野球バカが、岩下くんである。
 ゆみみはどうやら、この岩下くんが好きらしい。イタイイタイ同士でお似合いであるが、何故にわたしを間に挟むのか。わたしはアレか、緩衝剤か何かなのか。互いのイタイイタイなのである棘が刺さらないようにするための。
「お願い、岩下くんに聞いてみて! ゆみみから直接じゃ……きゃっ」
 何が「きゃっ」だ。こっちは「ぐへー」と言いたいのに。
 そう思いつつも、付き合いのいいわたしはちゃんと調べてやった。岩下と直接話すのは正直面倒くさいので、周りのヤツに聞いた。もっとも、岩下にはまともに友達がいないのでそれも苦労したが。
「わかったよ、岩下くんの好み」
「本当?」
 ここで「ありがとう」の一言もないのが、ゆみみという女である。
「『雑草魂』だって」
 ゆみみはきょとんとした。
「え、何それ?」
「『雑草魂』。ちょっと前の野球選手のモットーっていうか人生哲学? みたいなやつ」
 ちょっと前、といったがあの選手はまだ引退してなかったかもしれない、と思い直したが、野球の「や」の字もわからないゆみみに説明してもしょうがないだろう。
「ゆみみよくわかんないけど、そっか、雑草か……」
 数日後、ゆみみと岩下くんがデートしたという話を聞いた。
 それから後、岩下くんはしばらく大学に来なかった。入院していたらしい。
 原因はまさか、と思ってゆみみに問いただすと、彼女は「そうだよ」と不思議そうにうなずいた。
「雑草が好きみたいだからね、ゆみみ雑草でスープを作ってご馳走したんだ」
 お腹イタイイイタイになったんだろうな。
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