役に立つ踊り
「いや、いらないだろそんなヤツ!」
戦士タルトスは声を荒げる。
ここは迷宮の街ファーフィ。タルトスはこの街のダンジョンを攻略し、名を上げようとする冒険者の一人だった。
幼馴染で治癒士の心得を持つセファ、ファーフィの街で知り合った探索士のディルと三人でパーティを組み、日夜ダンジョンを踏破しようと悪戦苦闘を繰り広げている。
そんな中、ディルが「新しいメンバーを入れよう」と言い出した。
迷宮探索は第三層まで進んだものの、それより先は三人で探索するには厳しい様子だった。状況を打破するために追加メンバーを募るのは、ダンジョンを探索する冒険者としては一般的な対応である。
そうして連れてきたのが、ミオナという小柄な少女だった。
やせっぽちで幼く見える彼女の職業を聞いて、タルトスは冒頭の叫びを上げたわけである。
「何だよ、踊り子って!? ダンスが何の役に立つんだよ!?」
ミオナは困ったようにディルの顔を見上げる。
「役に立つんだよ」
ディルはいたって冷静な口調で応じた。
「ミオナはセルファナ流暗黒舞踏という流派で修業をしてたんだ。その踊りは、戦いの中で色々な効果を及ぼすんだよ」
にわかには信じがたい、とタルトスは頭を振った。
「それなら、素直に魔道士を雇った方がよくない?」
ここまで静観していたセファが口を挟む。
「いや、魔道士にはできないようなことができるんだって」
なあ、と言われてミオナはやっぱり困ったような顔でうなずいた。どうやら困り顔がミオナの普通の表情らしい。
「えっと、わたしは、その、100個くらいの踊りを覚えてまして……」
100? とタルトスは難しい顔をした。数だけ聞けばすごいが、こういう売り込みをかけてくる時は、大抵の冒険者が話しを持っていると知っているからである。
「その中には傷を癒したり、毒を浄化したりするのもあって……」
「傷を治すのも解毒もわたしができるけど」
その専門職であるセファが鼻を鳴らす。
「えと、だったら、魔物を寄せ付けないとか、一番近い階段を探すとか……」
「それはディルができるよ」
ミオナは「えー」とディルを見上げる。ディルは少し渋い表情になった。
「じゃ、じゃあ魔物を倒したり……」
「戦士がいるしなあ。ねえ、タルトス」
おう、と力こぶを作ってみせる。
「俺をそのダンスで倒したりとかできねえんだろ?」
「ま、まあ……そうですね……。1対1だと厳しいです……」
はん、とタルトスは肩をすくめる。
「話になんないじゃねえか。何が魔道士にはできないこともできる、だよ?」
「まあまあ、そう言わずに……。ミオナ、他にも特技があるだろう?」
「いや、ないですけど……。踊りしかないですけど……」
その踊りだよ、とディルはうながし、一つミオナに踊ってもらうことになった。
その踊りは確かに見事であったが、かわいいだけだたのでおかえりいただいた。
作者にコメント