お題:簡単なおっさん 制限時間:15分 読者:46 人 文字数:1181字

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「しらばっくれんじゃねぇぞ、おっさん!」
 朝のホームに女子高生の怒声がこだまする。
「テメェ、完全にあたしの尻触ってたじゃねぇか!」
 髪を茶色く染めたヤンキー風の少女が、父親ぐらいの年齢の男性の胸ぐらをつかんでいた。
 男性はメガネをかけた小太りの男性で、「や、やめたまえ」と気弱そうに大汗をかいている。
「うっせぇ、死ね!」
 少女は拳を振りかぶり、男性の顔を殴った。遠巻きに見ていた野次馬たちからもどよめきが起きる。
「ふざけんじゃねぇぞ、おっさん。このまま殺してやろうか!」
「止めなさい」
 私は少女と男の間に割って入った。
「何だテメェ? そこのおっさんが悪いんだぞ! あたしの尻触ったんだよ!」
 恥じらいがないのか、大きな声で尻を触られたことを宣言する少女に、私は深々とため息を吐いた。
「確かに痴漢は卑劣な犯罪だ。だがね、このおじさんにも家族がいて、君のような娘もいるかもしれない。殺すというのはあまりに穏やかではないよ。殺したくなるのもわかるが、人間そんなに簡単なものではない。ここは警察に引き渡し、刑務所にぶち込むのが法治国家における事態の収拾方法というものだろう」
「ワケわかんねーこと言ってんじゃねーぞ!」
 このヤンキー風少女にしてみると、文字数オーバーだったのかもしれない。少女は更にいらだった様子でそう吠えると、私を押しのけて尻餅をついた格好のまま震えている男性に蹴りを入れた。
 ガシャッというおよそ人体から発するとは思えない音がして何事かと見ると、男性の体の一部、スーツの胸元が「割れて」いた。文字通り、瀬戸物の人形が割れたような割れ方であった。
 どちらかと言うと、プラスチックであったが。
「はん! 見たかよ!」
 少女は勝ち誇ったように言った。
「何が人間簡単じゃない、だ。このおっさんは簡単なおっさんじゃねぇか! こうすりゃマジで簡単に……ほら、ほらぁ!」
 少女は男の膝を、腹を、腕を、頭を踏みつける。グシャリガシャリと音がして、確かに簡単に体が割れていく。中身は空洞で、まるっきり昔のプラモデルみたいだった。
 そうか、この男性もか。ようやく私は得心する。
 モナカ構造の痴漢モブだ。
 痴漢モブは、男性からの女性の性的搾取が今も行われていることを示すために、急進的なフェミニスト団体が作った1/1スケールの動くプラモデルだ。満員電車に乗り込ませ、女性の尻や胸を手当たり次第に触ってくる。量産を容易にするために、その多くはモナカ構造のハリボテだ。
「はん、完全に、こんなヤツ、破壊して……!」
「調子に乗らないことだ」
 私は少女腕を取ると、右上の方向にひねってもいだ。少女の腕は肩口でボールジョイントで接続されている。もちろん、引き出し式だ。
 この少女は、痴漢撃退プラモデルで、ちょっといい構造をしているのだ
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