お題:悔しい野球 制限時間:1時間 読者:83 人 文字数:834字

顔のないキャッチボール
 私には父親がいない。理由は分からない。
 物心がついた頃には父が居なかった。所在をわざわざ母に訪ねるほどの度胸や神経もなかった。
 故に今後もなぜ父がいないのか、明らかになる日は来ないのだろう。

 だが、今までの人生を振り返って父がいないことで困ったことはこれといってない。
 母は人望が厚いようで、男としての手本となるような人間はそこらかしこに居たのだ。
 母がそういった意味でだらしなかったという訳ではない。家族ぐるみの付き合いの友人が多かったため、自然と私も子供の一人として世話をされていたというだけだ。
 だから父親が居ないというよりは寧ろ、人より父親が多かったというのが正確なのかもしれない。

 しかしながら、人生において父親を羨んだことはある。キャッチボールだ。
 公園の傍を通ったり、空き地を横目にちらりと見たとき、そこでどこぞの誰とも知らない父子がキャッチボールに興じているのを見ると、どうにも胸に寂しさのようなものを覚えた。
 ふと足を止めてその父子の姿を、自分とすり替えようと想像する自分がいることに気付くのだ。 
 顔のない父親のような誰かとキャッチボールをする自分を夢想しては、そんな自分が居ることに怒りのような気持ちを覚えて足早に立ち去った。

 だから、自分に子供が出来たときはその喜びよりも先に、あのキャッチボールの妄想をもうせずに済むのではないかという安心にも似た感情があった。
 息子が成長して、キャッチボールが出来る年齢になったときは、興味のなさそうな息子を無理に誘って、公園へ行った。
 息子は無論のこと、私も経験なんてないものだから、ボールはあさっての方向に飛ぶし碌に続きもしなかった。それでも、胸には暖かい充足感を覚えた。

 今も公園の傍を通ると横目にどこかの父子がキャッチボールをしている姿が目に入ったりする。
 ふと、その時に空想するのは顔のない父親とのキャッチボールではなく、息子とキャッチボールをする私の姿だ。
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