お題:誰かと事故 必須要素:学校使用不可 制限時間:30分 読者:43 人 文字数:2482字

どこにもいけない夜がくる
園児さん作シナリオのネタバレがあります







腹の底にある感情に名前がつかなかった。


「外で話すのもあれですし」
マイヤーズはそう言って俺たちを自室に案内した。こんなことを言うのもあれだが、危機感がなさすぎやしないだろうか。一応は年若い女のかたちをしているくせに、と思ってけれどそれは外側だけの話だったことを思い出した。どうせこいつも人外じみた腕力をしているんだろう。人の骨をバキバキに折れてしまうようなそんな握力があるのかもしれない。それで危機感なんだのというのはちゃんちゃらおかしい。
俺はキールとともに部屋にあげてもらった。部屋はこぎれいにされている。ただロボットの住む部屋にしてはちょっとした小物だとかインテリアだとかに生活感がありすぎていた。
「テレスの部屋より人間の部屋っぽいね」
「学友がくることも想定していますから」
マイヤーズはそっけがなく、けれど的確に答えて俺とキールをテーブルの前に座らせた。
「ベッドだ〜」
「あなたたちもIAなら同じでしょうが、私たちは眠る必要はありません。ベッドも形ばかりのものですから、私は使いません。横になりたければどうぞ」
「そこまでしてくれるの?悪いね〜」
「いえ」
マイヤーズの顔色は読めない。それがロボットだからなのか、本当に何も考えていないだけなのかは全くしれない。じっと顔を凝視してみても、答えなんて出てくるわけもない。
「同じIA同士ですし、それに一応借りがあります」
その借り、という言葉を聞くと喉に何かが詰まったときのような息苦しさに襲われた。
俺とキールがこの女と対峙し、この女の中にあるバグ、エラー、本来ならありえないはずの心身障害のような四肢の機能障害をどうにかしようとしたことがそれにあたる。結局、それを解決したのはキールだった。したことはたった一つ。名前を呼び、存在を規定した。それだけでよかった。
マイヤーズはキールの言葉を聞き、噛みしめるように目を閉じてしばらくじっと硬くなっていた。まるで自分の中に浸透するのに、その回路ひとつひとつに行き渡って行くのにいちいち感じ入っているかのように。そして再び目を開いた時、マイヤーズは言ったのだ。「あなたは私の恩人のようです」と。
そこに何があったのか、俺にはわからない。
マイヤーズは人間か機械かを規定されたがっていた。けれどそれは別になんの解決にもならないだろう。もし俺やキールが人間だといったって、アテレイアはこいつのことを機械として扱い続けるだろうし、逆に機械だって言ったとして、こいつは人間として生活している中で人間としての振る舞いを求められ続ける。誰かの言葉で納得がいくようなものなら、そもそも四肢の機能障害を起こすまで悩むことにはならないはずだ。
それなのに、そう思っていたのに、そうではなかった。
俺の目の前では、起こらないはずの奇跡が起こった。単純なことだろ、とキールの目は言っていたけれど、俺にはあまりにも難解すぎて理解できようはずもなかった。これが理解できないのであればお前は機械だと言われても仕方がないかもしれない。マイヤーズが正気に戻ったとみると、キールは俺の隣に戻ってきた。けれど一歩踏み出して俺に背を向けて、マイヤーズの心の傷をまるでそこにあることもどんな形かもどうすればいいのかもわかっていたかのように全てを解決してしまった姿を見たあとでは、ひどくそれが惨めなような気がした。隣にいて腕が触れ合うほど近くにいるはずなのに、どうしてか寒いほど空疎だ。
「やーっと屋根の下にきたね」
キールはベッドの上にぽんと体を投げた。眠る必要がないことと眠らないことは別の次元の話だし、ここ数日寝ていないせいか体ではなく精神が、まるで癖のように睡眠を欲していることに気がついた。眠ることができるのかどうかはわからない。キールも同様のようで、眠そうな半眼がまどろみに沈んでいるのがわかった。
「……キール」
「なに……」
「お前は……」
お前は人間だ、と俺は即答できた。機械であることがいやだったということではない。機械と人の差がどう、というのではない。元々人間として生まれていてその自我がひとつづきのものであるならそれは人間の意識なんじゃないかという単純な推論でしかなく、そこには論拠なんてものはありはしない。そしてマイヤーズが機械でも人間でもないように、キールも人間でも機械でもないのかもしれない。何故って意識は外から観測した時、高度なプログラムとの区別がつかないからだ。出力されてくる言葉、表情、ふるまいが他の人間たちと酷似していること、つまり”それらしさ”があるのであれば、それは単純に人間だと判別されてしまう。アマヅラもマイヤーズも、そうやって不気味の谷を飛び越えて人として生活している。
人間とは何か、そんなものに答えなんてありはしない。考えるだけ無駄なのだ。答えが出ない問いを追い回すことにどんな意味も価値もない。けれど、と思う。
「キール」
「だから何」
「キール」
「しつこいなあ」
「キール」
「俺もう眠いんだけど」
その声は確かに眠そうなもので、けれどこの声音も今はどこかのスピーカーから流れているものなのかもしれない。この腹の中に詰まっているものは内臓ではなくてモーター類でしかないのかもしれない。人間の形をしているこれが、本当にキールなのだろうかなんて悩みをどう解決していいかもわからない。
こうやって肉の体以外になってしまったキールの連続性は担保されなくて、けれど俺の心のようなものはこれがいとしいのだと、欲しいのだと喚いているから俺はこれをキールだと思っている。それだけの話で。
ああ、でも、これがキールでなければいい。
キールのことを理解できたことはないけれど、今日のことはそれで流していいことではなかった。それは生きて行く上で見逃せないタイプの問題で、それが理解できないということはこれから一生、俺はキールと同じものが見られないということでもあった。そんなの絶望じみている。




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