お題:僕の宇宙 必須要素:純文学 制限時間:1時間 読者:67 人 文字数:3242字 評価:1人

さよならヒーロー
僕は宇宙をまたにかける凄いヒーローで、手にした銃はすごい威力で、この公園は僕のものだった。

「だから出てけ!」

白いお城とお花畑となんか美形の奴がいるような『領域』広げてる奴は邪魔だった。今すぐ出て行け。なんかお前、世界観が違うんだよ。

「あんたが出てけ」

背後に十人くらいの美形(幻)を従えながら彼女が言う。割と威圧感はあるけど鼻で笑う。マンガとかなら綺麗で圧倒されても、3次元だとなんか微妙だ。

「ここは宇宙なんだ! 僕がそう決めたんだ! おまえがいるところ、昨日まで宇宙ステーションだったんだぞ!」
「あんた、いっつもそこら飛び回って滅多に戻らないんだからいいでしょー!」
「それでもなの! 戻る場所ないと不安だろ!」
「そんなの知らない!」

僕の宇宙では、色々な宇宙船が飛び交い、ときどき惑星に落下したり異星人が侵略したりする。
彼女のお城では、さまざまな人が笑顔で談笑し、ときどき毒殺があったりクーデターが起きている。

意識を外に向けすぎてるからだった。
『領域』内部が暴走しかかっている。
僕はヒーローとして、彼女はヒロインとして『領域』の問題をとっとと片付けなきゃいけない。

けど、そんなことをすればまた『領域』が奪われてしまうかもしれなかった。

「もといた場所、どうしたんだよ」
「う……」
「僕んところに来ないで、あっちで前みたいに好きにやってればいいだろ」
「――」

彼女の背後で、暗雲が立ち込めた。
雷が鳴って、城にざあざあ黒雨が降る。
俯いた彼女の顔は、見えない。

「? どうしたんだよ」
「……変なのが、出た」
「は?」

きっと僕を見つめる瞳の鋭さ。
背後の暗さの中で、爛々と光っていた。

「……あんたに、私がいた場所あげる。全部よ。だからこの場所は、私のものにする」
「なに勝手なこと言ってんだよ!?」
「ゆずるって言ってんの! いいでしょ、今よりずっと広いんだから!」
「無茶言ってるってわかってる?」
「いいでしょー!」
「むむぅ」

僕は結局、しぶしぶ頷くことにした。
彼女の背後から立ち上がった、なんかやたらと凶悪なドラゴンにビビったわけじゃない。本当に違う。ほら、宇宙飛行士はいつだってフロンティアを目指すから、そういう理由だ。




彼女が元いた場所、つい昨日まではなだらかな草原やら花畑やらが広がっていた『領域』は、なんだか妙なことになっていた。

普通だった。
なんの『領域』の色もなかった。

ブランコはブランコだし、ベンチはベンチで、地面は地面だった。
僕なら宇宙衛星とか巨大構造物とかにしてしまうのに、そういう変化が一切ない。
けど、だからといってここが『領域』じゃないかと言えば、それも違った。

変化はない、けど、たしかに誰かの意識の内にいる、その感覚があった。

「なあ」

結局、なんの妨害もないままに、僕はそいつのところまでたどり着くことが出来た。できてしまった。

木蔭にビニールシートを敷いて、なにか本を読んでいる。小難しそうな内容はよくわからない。顔を上げないまま、ただ読んでいる。

「ここ、使ってないなら僕のものにするから」
「――」
「今日から、僕の宇宙だからな」
「――」
「つ、使ってないみたいだし、別にいいよな?」
「ん――」

それは、頷いたわけじゃなかった。
今初めて気づいたみたいに顔を上げ、僕を見た。
寝起きみたいな、あいまいな、焦点が合ってない表情。
ゆるゆると、手が持ち上がり、

「――あぶないよ?」

その合ってない焦点のまま、僕の下を指さした。
なに言ってんだコイツ、と心底思った。
『領域』が広げられるのは外だけだ、ナノマシンだか微量粒子だか知らないけど、そういうのと僕らの意識が組み合わさって展開される。
勝手を出来るのは外だけで、落とし穴とか作ろうとしたら自分で掘らなきゃいけないわけで――

「っ!?」

気づけば反射的に飛び跳ねた。
全身を怖気が走っていた。
『踏んではいけないものを踏んでいた』のを確信した。虫を百匹踏んだのよりなお気色悪い。おぞましい。癇に障る――

百や千の言葉でも言い表せない嫌悪。
全身から汗が流れて、口で呼吸する。

「本、読むから」

言ってソイツは顔をまた下げた。
視線だけで文字を追っている。
こっちのことなんて、もう気にも留めていない。

僕は、さっきやったみたいに文句をつけようとして――できなかった。

だって、それをするには、近づかなきゃいけない。
近づいたら、『それ』を踏まなきゃいけない。
何かよくわからない、けど、ただただ嫌なものを。不愉快なものを。

「お、覚えてろ!」

ヒーローらしくないセリフだけど、言いながら僕は背を向け走り出した。




僕は引き返すと同時に、ほとんど問い詰めるように訊いた。

「なんなのアレ、なんなのアレ!?」
「わかんないよ」

僕の背後には相変わらず宇宙があり、彼女の背後には変わらない美形たちが勢ぞろいしている。
けど、今この時だけは棚上げだ。どっちの『領域』が上かとか言ってる場合じゃない。

「ただ気色悪いから、私はあそこに居られなかった」
「わかる」

姿は見えないし、何かが現れたわけじゃない。
ただ感触が、足裏にちょくせつ触れたみたいにハッキリとわかった。
いや、違うか、触れてすらいない。なのに、ぴったりと張り付くみたいに、脳味噌に入り込むみたいに、その感覚だけが伝わった。

「アイツが読んでたの、何かわかるか?」
「わかんないけど、たしか純文学とかいうのらしいよ」
「まじか……」

僕にはまったくわからない『領域』だった。
それは、彼女にとっても同じらしい。

分からないからと言って、勝てる勝てないは別の話。そのはずだったんだけど――

「僕、苦手意識しかない……」
「私も――」

なんか難しくて、たぶん大人のもの。
そういうイメージだけがある。
そして、こういう印象は『領域』の強さに関わる。

「……どうする」
「私、負けっぱなしとか嫌」
「僕もだ」
「じゃあ純文学とか読むの?」
「それはもっと嫌だ!」
「同感」

それは、僕らが持っているのとは別のイメージだし、『領域』だ。
まして相手はかなり純文学とやらについて知っている。ずっと先を行っている。
苦手で負けて追い払われたからって、なんで相手の下に付くようなことをしなきゃいけないんだ。

「――」
「……」

僕らは頷き合う。
お互い、似たようなことを考えているとわかった。

僕は拳を打ちならしながら、彼女はお姫様風にしずしずと公園を出て行く。
背後で、僕の宇宙では応援の祝砲が鳴らされ、彼女の城では横断幕がかけられていた。
『領域』は公園内だけで、街中までは展開できない。彼らはここで待ってなきゃいけなかった。

僕らの行き先は当然、図書館だ。



そして、僕は僕の宇宙を、『領域』を広げる。
彼女もまた『領域』を展開させていた。

僕らは三日くらい図書館に篭って必死に調べてイメージを構築した。
こんなのは付け焼刃なのかもしれない、まだ届かないかもしれない。
けど、このままやられっぱなしは、無しだ。

強く頷く僕の横では、燃え上がる三つの目と黒い翼が闇から浮かび上がらせながらナイアーラトテップが顕現している。その更に背後には、宇宙的狂気が今や遅しと蠢き現れ出でようとしていた。

彼女の後ろでは鋼鉄の乙女を模した拷問器具が揺れ動く、そのたびに悲鳴と共に血が床へと流れ、次の拷問器具に付着し、頭蓋骨粉砕機やがみがみ女のバイオリン、スペインの長靴など別の拷問器具へと続く。

「負けられない」
「ええ」

僕が手にした新たな宇宙観の本、そして、彼女が手にした別の中世観、それぞれを新たに得て、僕らは挑む、純文学に。

アイツに勝てないヒーローなんて、もうお呼びじゃない。
作者にコメント

対戦作品一覧


ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:僕の宇宙 必須要素:純文学 制限時間:1時間 読者:117 人 文字数:3754字 評価:4人
毎朝、4時から家の近所を歩くことにしている。 4時なんて時間は、一年の半分は真っ暗で朝とは言えない。 暗い街中を、ほとんど誰とも会うこともなく1時間かけて一周 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:らび お題:僕の宇宙 必須要素:純文学 制限時間:1時間 読者:64 人 文字数:1437字 評価:2人
別に信じてくれなくて構わないが、私はかつて、私だけの宇宙を持っていた。まだほんの5つか6つの頃だ。 それは限定的な方法でのみ観測できた。つまり、夜空を見上げる 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:僕の宇宙 必須要素:純文学 制限時間:1時間 読者:58 人 文字数:2790字 評価:2人
人を指さしてはいけません、とお母さんには教わったものだけど、相手が人でないならその限りではない。対象をこれとわかりやすく示すためにはいい方法でもある。「あっち 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:僕の宇宙 必須要素:純文学 制限時間:1時間 読者:62 人 文字数:2785字 評価:1人
昨今では宇宙葬が人気である。宇宙葬というのはつまり、宇宙にポイという事だ。死んだ人間を棺に入れてそのまま土中に埋めるのではなく、燃え盛る業火の中に入れて骨にする 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:僕の宇宙 必須要素:純文学 制限時間:1時間 読者:67 人 文字数:3242字 評価:1人
僕は宇宙をまたにかける凄いヒーローで、手にした銃はすごい威力で、この公園は僕のものだった。「だから出てけ!」白いお城とお花畑となんか美形の奴がいるような『領域』 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:晴本 お題:僕の宇宙 必須要素:純文学 制限時間:1時間 読者:64 人 文字数:2127字 評価:1人
純文学に必要なものは何かと聞かれて、僕は迷わずこう答える。 芸術性。 けれど僕が彼にそれを訊ねた時、彼はこう言ったのだ。「情景」 と――。 文学部文学科に所属 〈続きを読む〉

inoutの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:inout お題:夜のぷにぷに 必須要素: 制限時間:1時間 読者:25 人 文字数:2831字 評価:1人
夜、ぱちりと目が覚めた。そんなことは初めてだったから、私は今が朝なんだと無邪気に信じた。だって、こんなにも目が冴えている。夜中だなんて、ありえない。けれど、のそ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:アルパカのカップル 必須要素:3000字以上 制限時間:1時間 読者:24 人 文字数:3639字 評価:0人
「己たちのようなものをアルパカと言うらしいぞ」「なんじゃ、それは」「だから、アルパカだな、アルパカ」「動物だかの名前だろう、それは。お前のような間の抜けた面ぁし 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:イギリス式の僕 必須要素:正月 制限時間:1時間 読者:32 人 文字数:3377字 評価:0人
イギリス式で行こうと思う、僕はそう炬燵の中で宣言した。御初参りとか新年見舞いとかの諸々の面倒臭いことはしないのだ、せいぜいが絵葉書を送って終わりの新年こそを、僕 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:オレだよオレ、野球 必須要素:哲学的な思想 制限時間:1時間 読者:43 人 文字数:3322字 評価:0人
オレオレ詐欺というものはもちろん知っているが、オレオレ野球というものは知らなかった。だからこそ、私は知らない番号からの通話を無警戒に受け取り、野球をしようと誘わ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:夏の妻 必須要素:出会い系サイト 制限時間:1時間 読者:50 人 文字数:2458字 評価:1人
「夏の間だけ、妻がいたんだ」先生は海を見ながら、そんなことを言った。その顔が、あまりに真剣で、嘘のないものだったから、「先生、今は冬ですよ」などと余計なことを言 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:楽観的な友人 必須要素:栓抜き 制限時間:1時間 読者:48 人 文字数:2184字 評価:0人
友達のケイはいつでも栓抜きを持っていた。サッカーをするときも、ゲームをするときも、学校で勉強するときも栓抜きを手にしていた。当然、いろんな人から注意されるけど、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:限界を超えた殺し 必須要素:爆弾 制限時間:1時間 読者:79 人 文字数:3279字 評価:0人
やあ、どうもどうも、見たところ麗しくはない様子ですがごきげんいかが?良くない? まったく、欠片も、少しも良くない?なるほどなるほど、たしかにそうだろうね、そうで 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:昨日食べた狼 必須要素:ご飯 制限時間:1時間 読者:62 人 文字数:3103字 評価:1人
鬼は、昨日食べた狼のことを思い返していた。オーガ亜種とされる鬼はモンスターの一種であり、食事と言えば通常の意味での食事ではない。戦い、倒し、生体の形を解き、取り 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:やば、帝王 必須要素:右肩 制限時間:1時間 読者:49 人 文字数:3671字 評価:1人
帝王があの町のどこかにいるらしい、そんな噂があった。バシブサンという片田舎、主要な交易行路からも外れている、特産品といえば長閑な景色くらいの、なんの変哲もない場 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:来年の粉雪 必須要素:資料 制限時間:1時間 読者:54 人 文字数:3109字 評価:0人
「今なにやってる?」「べんきょー」「嘘だな」「本当だって」「ひと段落とか考えて、そのまま本格休みに入るパターンだと見た」「見てもいないくせに言い当てるなよ、あた 〈続きを読む〉