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お題:近いお尻 制限時間:15分 読者:48 人 文字数:900字

こっちへおいで、ここに座って

 死者の戻ってくる日、という風習は世界のあちらこちらにある。
 東の島国では彼らの送迎まで用意するというし、西の大陸には気が触れるほどの鮮やかな色彩で彼らの帰還をよろこぶ。形は違えど、どこも似たようなものだ。みんな誰かに会いたい。

 わたしの国では、彼らのために椅子を用意する。
 できれば、生前に好んでいた椅子が良い。豪奢な革張りのソファである必要はない。台所用のスツールでも、飾り気のない木の椅子でも、なんでも構わない。ただ、できれば、一人用の椅子であることが「望ましい」とされる。理由は百通りほどの異なる説があり、はっきりしない。ソファでは彼らがうっかり眠ってしまってそのまま此岸に留まってしまうからとか、ベンチでは生者のために遠慮してしまうからとか、色々なことが言われている。
 そして、彼らが居る間は、生者はその椅子には座ってはいけない。
 死者に連れていかれるから、ではなく、単に無礼だから。
 まぁ、生前、よく膝に乗せてもらうような関係だったら別なのかもしれないが。

 わたしの部屋には、残念ながら、ソファしかない。
 付け加えるならば、わたしが見送った友人と家族は両手の指に収まりきらないので、彼ら全員分の椅子を用意するのは最初から不可能だ。
 よって、わたしは、彼らの滞在中にも、遠慮なく、我が家でたったひとつだけのソファに座り、本を読む。テレビを見る。食事をする。珈琲を飲む(時には空のカップをひとつ隣に置く)。日記を書く。独り言をだらだらと述べる。ときおり彼らに話しかける。返事はもちろんない。

 ソファの右側と左側、どちらに彼らが座って居るのかは、わからない。もしかしたら二人居ることもあるかもしれない。うっかり尻の下に敷いてしまったこともあるかもしれない。だが、わたしの友人たちは、みな良い人だったので、きっと許してくれるだろう。

 ときおり、誰かが隣あって、あるいは三人無理に座って居るときのような、温もりを感じることがある。
 熱い子供の体温。ふわふわとした毛のぬくもり。筋肉質でごつごつとした感じ。揺れる尻尾。ジーパンの布地。
 いちねこの日々だけのことだ。
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