お題:どこかの寒空 制限時間:30分 読者:44 人 文字数:1609字
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雪道
ふう、と息を吐くとその部分は白く染まっていた。自分の呼気が、ひいては体内が外気よりも熱いという証拠だ。痛む節々を押さええながら、積雪2センチの道を進む。
なぜ、こうなってしまったのだろう、と考えた。眼の前を歩く桜柳という探偵と何故か隣同士の部屋になり、それからしばらくして仕事が一緒になり、何故か夏の祭りにでかけたことしか覚えていない。そこまでの記憶しかないのに、景色は白く染め上げられている。なぜ、こうなってしまったのだろう。昨日は普通に帰ったつもりだったのに。確かに普通とは程遠い生活を送っているけれど、なんでこうなってしまったのだろう。
桜柳は雪の道を慣れたように進んでいく。雪があった国で生まれたのだろうか。この人のことを何も知らないから、全然わからないけれど。
「ちかちゃんは、寒いの苦手?」
しんしんとふりつもる雪の中で、桜柳が場に似合わないひょうきんな声を上げる。
「……苦手、ですかね」
「へえ。好きそうな顔してんのに」
「どういう顔ですか」
でも、熱いのはもっと苦手だ。自分で自分の感覚を制御できないのが苦手だ。熱いのも、寒いのも苦手。できれば調節された環境の中で一生を過ごしたいなと思う。
それから、桜柳さんはどうですか、という言葉が出ないことに気がついて、俺は本当にこの人に興味がないなあ、と自分で思い知る。桜柳さんだけじゃない、別に誰だって。誰だって興味はない。確かに自分が生きているのは他人がいるからであり、報酬があるからであり、それで成り立っているのだけど。でも一番はやっぱり何もかかわらないほうがいいと思う。
「みんな死んでましたね」
みんな死んだということは、誰も居なくなったということ。頭部をあれほど見事に破壊されるのだったら、もう命がないのは明らかだった。
「生きている人間が居ないと、商売上がったりなんですけど」
「まあ、なんか方法があるんちゃうかな。探せばあるよ、きっと」
知ったような口ぶりだな、思って、その先を追求するのを止る。桜柳という男はいつだって、知らないようでなにかを知っているような素振りを見せる。何かって何を? それはわからない。この街に引っ越してきたばかりの頃、苦虫を潰したようなあの顔に関係しているのだろうけど。これは俺と出会う前の話しだし、桜柳さんが言わないのであれば、それはきっと言う必要のないことだと思っての判断なんだろう。
道なりに進んでいくと、先程頭部を破壊されていた男と同じような人物がまばらに立っている。石膏のように固まっていて、ぴくりとも動かない。けれど多分、脳は生きているので思考だけがその場で残っているんだろう。おそらく口も手も、もちろん体も動かせないけれど、この人たちは生きている。
「どちらがいいんでしょうね。自我があるうちに自ら命を断つのと、放置されて永遠に生きるのと」
「なったことないからわからんなあ」
「今からなる可能性だってあるでしょう」
「あんまり考えたくないなあ」
そんなの俺だって考えたくない。自分が死ぬときのことなんて。けれど世界はなぜか時間が進んでいて、明らかに異常気象で、その上得体のしれないなにかが地上を蔓延っている。公共交通機関は死んでいるし、報道がなんとか保っているようだがそれももう時間の問題だろう。
これが世界の終わりというものなのなら、こんなにドラマティックなことはない。誰も居ない雪道、男が二人足跡を並べてなにか手がかりがないか歩いていく。桜柳先生には悪いけれど、多分きっと何もないんだと思う。そういうのが、きっと人生なんだ。誰も何も残らず消えてなくなる。
ずっとそうなりたいと、思っていたから。
「世界が終わったら、どうなるんでしょうね」
今まさに世界が終わるという場面で、桜柳さんは振り向いて答えた。
「そんなん、死ぬんちゃう?」
「……確かに」
何言うてるのと、ケラケラと桜柳さんは笑った。
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