お題:秋の血 必須要素:ビール 制限時間:30分 読者:31 人 文字数:1350字
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 窓からびゅうと吹きこんできた風が思いのほか冷たくて、身をすくめた。寒い。もう秋なんだ、と今更のように実感する。
 私は部屋を見渡し、作り付けのクローゼットの扉を開ける。しばらく物色すると、今の時期にぴったりな大柄なコートを発掘できた。着てみると私の身長には少し合わない一品なのだが、まあ、この寒さをしのぐには丁度いい。
 アパートの一室であるこの部屋を抜け出し、電灯に照らされた夜の街を行く。空を見上げると星が出ていた。雲は晴れているらしい。こうも街中が明るいと美しい夜空と言うのは全く見れなくて、それが少し残念だった。
 私の足は真っ直ぐに行きつけの酒場へと向いていた。こんなさびしい一人の夜、飲まなければやってはいられない。
 もう何度も足を運んだ、くたびれた暖簾を掻き分けて店へと入る。いらっしゃい、と控えめに声をかけてくれた店長意外に、客は一人しかいなかった。だというのに、その一人が知り合いなものだから、世間の狭さを実感する。
 カウンターに座ってちびちびとグラスを煽っていたらしいその男は、私の姿を見て片手を挙げた。
「やあ」
 そうされてしまっては、隣に座るほかない。一人になりたい気分だったが、まあそれならそれで仕方がないだろう。私はこれ見よがしにため息をついて、彼の隣に座った。
「久しぶりだね。どうだい、仕事は?」
「何時もどおりよ。そっちこそどうなの」
「順調さ。どうしたんだいそのコート。君には大きすぎるようだけど」
「手に届くところにあったから羽織ってきただけ」
 店長が前にやってきたので、とりあえず生を一つ、と頼む。
 隣の男が意外そうな顔をした。
「生なんて飲むのかい。お洒落にカクテル頼んでるイメージだったけど」
「漸く仕事が上がったところなの。一気に流し込んで面倒を忘れたい気分なのよ、今は」
 ビールはすぐに運ばれてくる。食べるものはどうしようかと少し迷ったけれど、それよりも喉の渇きを先に潤そうと考え、それを手にとった。
 男が愉しそうな顔をしながらグラスを持ち上げてくるのが視界の端に映る。ため息をもう一つこぼして、グラスを軽くぶつけた。
「乾杯」
「何に対してのよ」
「勿論、君の仕事上がりに対して」
「思っても無いくせに」
 ぐい、と喉の奥に流し込む。にがい。だけど、おいしい。ビールが胃袋の中に落ちていく感覚と一緒に、疲れきった身体が癒えていく。そんな気がした。
「君、一気に飲みすぎだ。中毒になる。酒に殺されるよ」
「ふん、酒に人間が殺せるわけがないじゃない。殺すのは何時だって人間よ。私が私を殺すの」
「もう酔いが回ってるのかい? しかし、そんな無茶な自殺の方法を選ぶ必要はないじゃないか。死にたいなら俺が殺してあげるよ」
「あんたの手にかかるなんて真っ平ごめんだわ。自分の死に方は自分で決める」
「それは結構なことだ」
 男は笑って、
「だけどね」
 と、目を細める。
「だったら殺される場所を選べるように、気をつけておくべきだと思うね」
 ふん、と私は鼻を鳴らす。メニュー表を開いて、さて、何を食べようかと思案する。
「臭うよ、血」
 黙っていればいいのに、余計なことを言う男だ、と思った。コートの裏に隠している赤が重く感じるじゃないか。
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