お題:絵描きの血痕 制限時間:30分 読者:51 人 文字数:838字

コーヒーカップに絵を描く店員
 ドリップコーヒーが入ったプラスチック製のカップに落書きと共にLINEのIDらしきモノが書いてある。書いていた店員はそのカフェには相応しくないような憂鬱な雰囲気を纏う、声の小さな女だった。僕は奇妙に思って席からカウンター内を盗み見ると女もこちらを見ており、まるで誰かに指示でもされているかのようにぎこちなく微笑みを向けるのであった。気にしないようにやり過ごそうと文庫を開くも文字を追うだけで内容がまるで入ってこない、ましてやその退屈な文庫で暇を潰すより遥かに有意義なわざとらしい現実が目の前にあるのだ。女は僕を観察しているのだろうか、視線が纏わりつくような嫌な感覚があり、自分の内側に熱が篭って少しづつ耳を熱くしていく。反対に指先は冷たくなって、不可解な怖さが早くなる鼓動を意識させた。
 少しだけ残ったカップのコーヒーを持って店を出ようとすると、女が気を利かせた店員を振る舞い「カップ、捨てて置きましょうか」と微笑む。その見透かしたような悪意のある笑顔を無視して、車へと戻った。恥ずかしさと無意味さで息苦しいのに、そのIDを検索する。すると後ろ姿のアイコンと(蝶子)という名前が表示された。地味な印象に似つかわしくない派手な名前からまた気味の悪さを感じるが、退屈を凌ぐにはもってこいの素材が見つかった高揚感も確かにあった。
 (どういうつもりですか?)と試しに送ることにする。するとすぐに既読が付き、(貴方のせいですから笑)と返事が来る。もっと知りたいのに、踏み込んではいけない人間だと流石に分かっている自分もいる。(からかわないでください、普通にお話がしてみたい。)と返事をして駐車場から車を出す。運悪く店のすぐ前の信号に引っかかり、店の中を注意深く眺めてしまった。すると彼女は違う客を相手にしており、忙しく動き回っていた。

(そろそろ仕事が終わります、会いませんか?)

そんなはずは無い。今、返事をするタイミングなんて、無かったじゃないか。

(貴方、誰ですか)

作者にコメント

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