お題:肌寒い恨み 制限時間:15分 読者:54 人 文字数:930字

失ったものの価値
ふわりと細切れの鈍色の雲が空に浮かぶ。
雲が月の光を遮り、暗い影を地上に落とす。
背筋を震わせる風が草むらの雑草を薙いだ。
草葉がざわりと音を立てた。
僕は剣を握る諸手の力を強める。
――今日、ここにあいつは来るはずだ。
父さんを討った敵は今宵僕の目の前に現れる。
あの日、笑いながら家を後にした父さんの肉体はついぞ家に帰ってくることはなかった。
帰ってきたのは父さんの身をなしていた骨片のひとかけ。
絹のハンカチに包まれたそれが母さんのところに、僕ら家族に届けられたのはもう半年も前になるだろうか。
半年の間、倒産が所属していた群で鍛錬を積んだ。
20年も所属していた父さんには剣の腕で勝てるとは思っていないし、僕は駆け出しも甚だしいぺーぺーの兵士だ。
それが今宵師団長を倒した敵を討とうというのだから事情を知らない人間にとってみれば無謀な話どころか、僕のことを自殺志願者と勘違いするだろう。
でも、そうじゃない。
僕は死ぬつもりなんかさらさらない。
生きて、この戦いに勝って父さんの敵を町の人間の前にさらしてやるのだ。
父さんを笑いものにした人間を許さない。
刹那。
後ろに気配を感じる。
足音は一切聞こえなかった。
静かな殺気、とでもいうのだろうか。
間違いなく、僕に対する友好的ではない気配が背後にある気がしたのだ。
僕は勢いよく振り返る。
そこにいたのは、悪魔。
悪魔としか形容のしようがない。
筋骨隆々の躯体は毛深い人間のそれで、野性味の強い腰巻を身に着け。
頭は獅子。
背中には大きなコウモリを思わせる羽をまとい。
なにより、「それ」は――。
宙に浮いていた。
あまりの衝撃に足から力が抜けそうになるのを必死にこらえた。
「あの文を私の届けたのは貴様か」
腹の底から怯えが上がってくるような低音を響かせ、悪魔は僕に尋ねる。
僕は首を縦に振ることしかできなかった。
「誤解だ」
悪魔の一言に僕は耳を疑った。
「私はあの人間が息絶えているところに遭遇しただけなのだ」
悪魔は僕から目をそらしながら言う。
「おぬしの父上を殺した者は私ではない。しかし、その憎悪なかなかによき」
悪魔はにたりと笑ってみせた。
夜が明けると、僕は人間の姿を失っていた……。
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