お題:肌寒い恨み 制限時間:15分 読者:18 人 文字数:930字

失ったものの価値
ふわりと細切れの鈍色の雲が空に浮かぶ。
雲が月の光を遮り、暗い影を地上に落とす。
背筋を震わせる風が草むらの雑草を薙いだ。
草葉がざわりと音を立てた。
僕は剣を握る諸手の力を強める。
――今日、ここにあいつは来るはずだ。
父さんを討った敵は今宵僕の目の前に現れる。
あの日、笑いながら家を後にした父さんの肉体はついぞ家に帰ってくることはなかった。
帰ってきたのは父さんの身をなしていた骨片のひとかけ。
絹のハンカチに包まれたそれが母さんのところに、僕ら家族に届けられたのはもう半年も前になるだろうか。
半年の間、倒産が所属していた群で鍛錬を積んだ。
20年も所属していた父さんには剣の腕で勝てるとは思っていないし、僕は駆け出しも甚だしいぺーぺーの兵士だ。
それが今宵師団長を倒した敵を討とうというのだから事情を知らない人間にとってみれば無謀な話どころか、僕のことを自殺志願者と勘違いするだろう。
でも、そうじゃない。
僕は死ぬつもりなんかさらさらない。
生きて、この戦いに勝って父さんの敵を町の人間の前にさらしてやるのだ。
父さんを笑いものにした人間を許さない。
刹那。
後ろに気配を感じる。
足音は一切聞こえなかった。
静かな殺気、とでもいうのだろうか。
間違いなく、僕に対する友好的ではない気配が背後にある気がしたのだ。
僕は勢いよく振り返る。
そこにいたのは、悪魔。
悪魔としか形容のしようがない。
筋骨隆々の躯体は毛深い人間のそれで、野性味の強い腰巻を身に着け。
頭は獅子。
背中には大きなコウモリを思わせる羽をまとい。
なにより、「それ」は――。
宙に浮いていた。
あまりの衝撃に足から力が抜けそうになるのを必死にこらえた。
「あの文を私の届けたのは貴様か」
腹の底から怯えが上がってくるような低音を響かせ、悪魔は僕に尋ねる。
僕は首を縦に振ることしかできなかった。
「誤解だ」
悪魔の一言に僕は耳を疑った。
「私はあの人間が息絶えているところに遭遇しただけなのだ」
悪魔は僕から目をそらしながら言う。
「おぬしの父上を殺した者は私ではない。しかし、その憎悪なかなかによき」
悪魔はにたりと笑ってみせた。
夜が明けると、僕は人間の姿を失っていた……。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:まろやかに傾く人 お題:肌寒い恨み 制限時間:15分 読者:55 人 文字数:433字
「何か食べ物を。……この魚くださいな」「はいよ。……ハイおつり」「しかし、ここは寒いですね」「ははは、住めば慣れますよ」「世界一寒い町……あたり一面が雪でびっく 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
厚い雪 ※未完
作者:緑黄色野菜@小説家になろう お題:素朴な大雪 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:611字
朝、目覚めると目の前には銀世界が広がっていた。木の枝から伸びるつららや大地を覆い隠す素朴な大雪が私の見る世界を世界を一変させた。このような素晴らしい光景を見る 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:許せないサッカー 制限時間:15分 読者:11 人 文字数:785字
今日も外から窓を鳴らす音がある。階下から石が投げられてぶつかったのだ。部屋のあるじの少年は、また来たのか、と一日中いたベッドの上から、その日はじめて降りて窓辺 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:夢路 お題:可愛い小説合宿 制限時間:15分 読者:6 人 文字数:425字
今日は高校の文芸部のみんなと一緒に、合宿に来ている。 テーマは「可愛い」 それぞれがこのテーマに沿って小説を書いて、それぞれ読み合わせるのだ。 ただ一つ懸念が 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:黄色い四肢切断 制限時間:15分 読者:10 人 文字数:719字
春になると部屋にテントウムシが大量発生する。なんでも、日当たりのいい窓の上部なんかに密集して冬を越し、初春になると、外よりもまだ温かいからと室内の側にわらわら 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:日ノ宮理李@ハナねね町長 お題:同性愛の木 制限時間:15分 読者:17 人 文字数:802字
愛が永遠であるならば、それはきっと素晴らしいものだろう。色あせないものとして色んな場所に咲き続けこの世を支配もできた。 そんな素晴らしく美しいものは、今の私に 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:12月のお天気雨 制限時間:15分 読者:3 人 文字数:962字
珍しいこともあるものだ。空を見上げれば、まぶしいまでの晴天。それなのに雨が降っていた。所謂天気雨というやつだ。雨をよけるために傘を鞄から取り出そうとしたとき、手 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
ナゼとタチキ ※未完
作者:はるちか お題:かっこ悪い僕 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:383字
「その髪の色は本当どうにかした方がいいと思う」「え、そんなに変?俺は割と気に入ってるんだけど」「ナゼさんには似合ってると思うけど、初対面の人は警戒しそうっていう 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:記憶の愉快犯 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:1083字
「爆弾?」 教頭の大山は、上がってきた報告に顔をしかめた。「うちの学校に仕掛けたって?」 馬鹿馬鹿しい、と大山は吐き捨てる。「どうせこんなのは愉快犯だろう?」「 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:川ノ上 お題:記憶の愉快犯 制限時間:15分 読者:5 人 文字数:824字
今思い出すだけでも、笑いが込み上げてくる。午前正午。昼休みのチャイムが景気良くなる屋上で、弁当の風呂敷を解いたボクは彩り豊かなきんぴらごぼうを口に運び、小さく笑 〈続きを読む〉

さかいしんやの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:さかいしんや お題:肌寒い恨み 制限時間:15分 読者:18 人 文字数:930字
ふわりと細切れの鈍色の雲が空に浮かぶ。雲が月の光を遮り、暗い影を地上に落とす。背筋を震わせる風が草むらの雑草を薙いだ。草葉がざわりと音を立てた。僕は剣を握る諸手 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:さかいしんや お題:隠されたカップル 制限時間:15分 読者:27 人 文字数:882字
放課後。級友たちは散り散りに帰っていく。街に遊びに繰り出す者。塾がある者。趣味に興じる者。部活に勤しむ者。大体はそれぞれが級友と帰っていく。俺も級友とたわいない 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:さかいしんや お題:穏やかな恋愛 制限時間:15分 読者:21 人 文字数:808字
しっとりとした湿り気を帯びた風が肌を撫ぜ、降り注ぐ陽の光は間もなく来る夏が待ちきれない様子で照り付けている。ついこの間まで雨が降り続いていたのが嘘のように、心地 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:さかいしんや お題:彼の戦争 制限時間:15分 読者:38 人 文字数:978字
――戦争をしているときは、戦争だなんて思わないもんだ。そう言って彼は嗤った。特に兵士はそんなつもりはないんだ、とも。別に戦争がしたいわけじゃない。国の勝ち負けな 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:さかいしんや お題:彼女が愛した男の子 制限時間:15分 読者:27 人 文字数:1090字
あの日君が生まれた。星降る夜だった。産気づいた彼女を連れて町中の宿屋を回ったけれど、産気づいた女を連れた人間なんか誰も泊めちゃくれない。知っていたさ。身分だって 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:さかいしんや お題:私の俺 制限時間:2時間 読者:30 人 文字数:1251字
――あなたは誰?キミが問う。難しい質問に俺は戸惑う。俺は俺だ。キミでもあるそして俺は誰でもない。キミは屈託なく笑った。まぶしいくらいの満面の笑顔を俺に見せてくれ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:さかいしんや お題:凛とした墓 制限時間:15分 読者:153 人 文字数:1165字
心臓が痛い。くじいた足の痛覚もマヒしている。ようやくたどり着いたのは先ほど隠れ蓑にしていた瓦礫の山よりかは幾分かはマシ……というくらいの野営地だった。「よおお二 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:さかいしんや お題:女同士の猫 制限時間:15分 読者:188 人 文字数:1221字
最近よく見る猫がいる。アタシのテリトリーによくいる猫。誰の許可を取っているのか、あるいは決め事なんてないのだから許可なんかいらないのか。あいつのニオイを嗅げば、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:さかいしんや お題:頭の中の太陽 制限時間:15分 読者:211 人 文字数:1187字
あの暑い夏の日に捕まってから、どれだけ経ったのだろう。独房の鉄格子がはまった窓から空を見上げる。悲しいくらい真っ青な晴れ間がのぞいていた。ひどく長いようで、あっ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:さかいしんや お題:斬新な国 制限時間:15分 読者:187 人 文字数:1098字
「てめえ死にてえのか!」威勢のいい声が店内に響いた。店内に客らしい客は俺のほかに2人。「お客様の迷惑になりますので、ここでは……」気の弱そうな店主がいかにもガラ 〈続きを読む〉