お題:君と許し 制限時間:15分 読者:54 人 文字数:528字

『君と許し』
 跪き、頭を垂れる。床に敷き詰められた緋毛氈、高い窓から射し込むわずかな光を反射して、漂う埃が煌めく。
 呼吸の音さえ伽藍に反響しそうな、張り詰めた沈黙が辺りを支配する。
 ロザリオの石を繰って君は小さく呟く。祈りに似た、その実ひたすら許しを乞うだけの文句を絶え間なく綴る。強張った頬、固く閉ざした目、苦し気に眉根を寄せたその横顔はいっそ脅迫的なほどだ。垂れた髪がかすかに震えている。
 君はまだ知らない。君の神さまは死んでしまったことを。背信と風化と倦怠、それらによって神は息の根を止められた。いまやそれは慣用句か冗句のなかにしか存在しない。
 木偶のような、残骸のような神にそれでも君は祈る。
 僕は君に背後から近づく。俯く花の茎のように細い首筋にそっと触れる。一瞬、君の言葉が途絶える。肩が跳ねる。君が振り返るより早く僕の指先はロザリオの留め金を外す。
 小さく音を立てて、糸で繋いだ鉱石と身代わりのシンボルは床に落ちた。
 もう神はいない。君の神はいない。
 泣き出しそうに歪む君の顔は何よりも美しい。前髪を払って、その眼を覗き込んだ。
 神はもういない。でも、僕がいる。
 祈るならば、縋るならば、僕にすればいい。
 永遠に僕が、許してあげよう。
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