お題:夜の母 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:1078字

一夜の邂逅
私の家は母子家庭でした。
小さい頃から母と2人、薄汚れたアパートで暮らしていました。
貧しい暮らしでしたが、自分が不幸だと思ったことはありません。
冬の寒い夜など、母が私の小さな手を両手で包み込んで温めながら、昔話などを聞かせてくれました。
そうして母に包まれているのが、私は好きでした。

或る夜、見たこともないような立派な車が、私を迎えにきました。
見知らぬ大人に促されるまま、私は車に乗り込みました。
母は黙ってその様子を見ていましたが、その面は悲しそうでした。
やがてやはり見たこともないような広い庭を持つ豪邸につれていかれました。
車が門を潜り本館につくまで、5分ほどかかったと記憶しております。

広すぎて落ち着かない、寒々しささえ覚える畳の間に連れていかれ、しばし待たされました。
やがて1人の女性が私を尋ねてきました。淡い色の着物に身を包んだ、細面の、美しい女性でした。

その女性は、私に様々な質問をしてきました。
「学校は楽しいですか?」
「はい、とっても楽しいです」
「好きな教科はなんですか?」
「図工の時間に絵を描くのが好きです」
「お勉強はお嫌いですか?」
「あまり好きではありません」

私が頬を赤らめて応えると、女性は慎ましやかに笑い声をあげました。
不思議と嫌な気はしませんでした。

とりとめのない会話が続き、最後に女性はこう尋ねました。

「…あなたは、お母さまがお好きですか?」
「はい、母は僕を育てるために、寝る間も惜しんで働いてくれています。感謝していますし、ええと、と、とても偉いと思います。大好きです」

拙い語彙で精一杯母への敬愛を伝えると、女性は寂しそうな顔をしました。
やがていとまを告げ、女性はがらんとした和風の間から去り、私も帰されました。
大きな屋敷から元のボロアパートへ戻され、元の生活がまた始まりました。

あの謎の女性は私の本当の母ではなかったか、と思うようになったのは、大分後のことです。
その頃には一緒に暮らしている母が、自分の本当の母ではないことに気づいていました。
それを知ったところで、私の母への想いはなんら変わるものではありませんでした。
実の息子以上の愛情を注いで育てられた、と今でも思っているからです。

その母もなくなり、今は先祖代々の墓地に眠っています。
あの謎の女性は誰だったか、その後私は知ろうとも思いませんでした。
あの邂逅は一夜の奇妙な夢だった、と思うことにしています。

先祖代々の墓に眠る”母”の息子であることを誇りに、私はこれからも生きていくことでしょう。
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