お題:夜の母 制限時間:15分 読者:36 人 文字数:1078字

一夜の邂逅
私の家は母子家庭でした。
小さい頃から母と2人、薄汚れたアパートで暮らしていました。
貧しい暮らしでしたが、自分が不幸だと思ったことはありません。
冬の寒い夜など、母が私の小さな手を両手で包み込んで温めながら、昔話などを聞かせてくれました。
そうして母に包まれているのが、私は好きでした。

或る夜、見たこともないような立派な車が、私を迎えにきました。
見知らぬ大人に促されるまま、私は車に乗り込みました。
母は黙ってその様子を見ていましたが、その面は悲しそうでした。
やがてやはり見たこともないような広い庭を持つ豪邸につれていかれました。
車が門を潜り本館につくまで、5分ほどかかったと記憶しております。

広すぎて落ち着かない、寒々しささえ覚える畳の間に連れていかれ、しばし待たされました。
やがて1人の女性が私を尋ねてきました。淡い色の着物に身を包んだ、細面の、美しい女性でした。

その女性は、私に様々な質問をしてきました。
「学校は楽しいですか?」
「はい、とっても楽しいです」
「好きな教科はなんですか?」
「図工の時間に絵を描くのが好きです」
「お勉強はお嫌いですか?」
「あまり好きではありません」

私が頬を赤らめて応えると、女性は慎ましやかに笑い声をあげました。
不思議と嫌な気はしませんでした。

とりとめのない会話が続き、最後に女性はこう尋ねました。

「…あなたは、お母さまがお好きですか?」
「はい、母は僕を育てるために、寝る間も惜しんで働いてくれています。感謝していますし、ええと、と、とても偉いと思います。大好きです」

拙い語彙で精一杯母への敬愛を伝えると、女性は寂しそうな顔をしました。
やがていとまを告げ、女性はがらんとした和風の間から去り、私も帰されました。
大きな屋敷から元のボロアパートへ戻され、元の生活がまた始まりました。

あの謎の女性は私の本当の母ではなかったか、と思うようになったのは、大分後のことです。
その頃には一緒に暮らしている母が、自分の本当の母ではないことに気づいていました。
それを知ったところで、私の母への想いはなんら変わるものではありませんでした。
実の息子以上の愛情を注いで育てられた、と今でも思っているからです。

その母もなくなり、今は先祖代々の墓地に眠っています。
あの謎の女性は誰だったか、その後私は知ろうとも思いませんでした。
あの邂逅は一夜の奇妙な夢だった、と思うことにしています。

先祖代々の墓に眠る”母”の息子であることを誇りに、私はこれからも生きていくことでしょう。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:梨乃 お題:遠い靴 制限時間:15分 読者:15 人 文字数:1066字
赤い靴、という童話をご存知だろうか。この村には踊り子がいた。可愛くて、無邪気で、みんなから好かれるような、そんな踊り子。黒い髪は艶やかで、肩までに切り揃えられ、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:DDT お題:アブノーマルな転職 制限時間:15分 読者:10 人 文字数:425字
休みてえええええええただひたすら小学生の市民プールにしか行かなかった夏休みのようなやすみがほしいいいいいいいいそうだ!転職しようぜ!会社を辞めた 完全な勢いだけ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:t お題:勇敢な孤島 制限時間:15分 読者:3 人 文字数:627字
かつて勇敢な戦士のみがたどり着けるとされた聖域があった。それは山頂であったのか、城であったのか、はたまた島であったのか。そこにいたのはごく平凡な少女。側には彼女 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ハリモグモグ お題:せつない大地 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:953字
男は荒野を歩いていた。 荒野を旅する用心棒である男は町から町へと旅をしていた。 途中で芸人一団の馬車に乗せてもらって次の街へと移動していたのだが。 馬の休憩中 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:かたぎり お題:犯人は夏休み 制限時間:15分 読者:7 人 文字数:124字
僕は名探偵家で勉強をしていたでもなんか手がつかない思いっきり外に出て図書館に向かったいたいた眼鏡をかけた友達がそこにいた「いこうよ」「えー受験やし」いいじゃん近 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:夢路 お題:誰かは爆発 制限時間:15分 読者:3 人 文字数:342字
「『誰かは爆発』……ってどういうこと?」PCの前ではたと手を止める。「わからん。意味不明なセンテンスだな。ランダムにお題が出題されるからたまにそういうことが起き 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:へちま お題:ラストはゲーム 制限時間:15分 読者:7 人 文字数:435字
繋いだ手に力を込めると、ぎゅっと強く握り返された。じわりと温もりが繋がれた指先から伝播して広がる。父も私と同じで離れがたいのだと、なんとなく分かった。並んで歩く 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:日ノ宮理李@ハナねね町長 お題:今日の門 制限時間:15分 読者:11 人 文字数:924字
待ち人来る。 今日の占いはそんな結果だった。 当たったことなんてもちろんないから、今日待ち人は来ない。 そもそも何を待ってるのかもわからない。 占いはわからな 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ハリモグモグ お題:自分の中の朝飯 制限時間:15分 読者:5 人 文字数:971字
「いけねえ! 遅刻だ!」 毎度のことながら朝は苦手で寝坊することも多い。 今日も寝坊して慌てて布団から飛び出て、急いで支度をして家を出た。 もちろん、朝飯を食べ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:いわゆる奈落 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:1207字
わたしの通っていた中学校には、「第二理科室で転ぶと、奈落に落ちる」という噂話があった。 それ以外に怪談らしい怪談のないその中学だったが、「奈落」というあまり使 〈続きを読む〉

いしゅとの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:おいでよ監禁 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:1181字
「凄いものをみせてやる」と坂本に呼び出され、高杉と一緒に彼の家に向かった。坂本の家は金持ちだ。いつ来ても、大きくて威圧的な家である。「よう遅かったな。こっちだこ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:頭の中の経験 制限時間:15分 読者:15 人 文字数:940字
私はアンドロイドだ。マスターが、かつての恋人を模して作った。その恋人は、不幸にも交通事故で亡くなってしまった。彼女を深く愛していたマスターは、嘆き悲しみながら、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:苦し紛れの宴 制限時間:30分 読者:10 人 文字数:2015字
「さあ皆、俺たちの仲だ。遠慮せず楽しくやってくれ」ホストの菊水が音頭を取ると、全員が一斉にグラスを挙げて乾杯した。菊水晴彦。鴻上晃、その妻恵美。天野勝平。菱川英 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:臆病な夕飯 制限時間:15分 読者:17 人 文字数:940字
10歳の皇帝は、いつも夕飯の時間を迎えるのが怖かった。いつ、自分が食するものに毒が仕込まれているか、しれた者ではなかったからだ。父である前皇帝の死去に伴い幼い彼 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:冷たい娼婦 制限時間:15分 読者:17 人 文字数:1092字
バイトの空き時間にスケッチをしていると、突然彼女が近寄ってきた。「一生懸命、何を描いているの?」「あ、これは…」ひょいとスケッチブックを取り上げられ、僕は赤面す 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:純白の馬鹿 制限時間:15分 読者:23 人 文字数:1029字
ディスプレイの前で2時間ほど粘ったが、一行も書けなかった。俺は画面から離れ、疲れた眼をもみほぐしながら煩悶する。小説がまったく書けなくなって、かれこれ一月ほど経 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:ねじれた空想 制限時間:30分 読者:20 人 文字数:1845字
「兄さん、私と付き合いましょう」「突然何を言いだすのだ、妹よ」「私も兄さんも花の高校生だというのに、未だに異性と付き合った経験がありません」「悲しいが、まあその 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:軽いぬるぬる 制限時間:15分 読者:18 人 文字数:998字
昔から、俺はぬるぬるしたものが嫌いだった。子供の頃、どうしても納豆を食べることができず、残してはよくお袋に叱られた。海釣りに出かけた時、吊り上げてしまった蛸が生 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:ぐふふ、解散 制限時間:15分 読者:17 人 文字数:852字
弟と美枝子を取り合い、俺は敗れた。潔く身を引く程人間が出来ていない俺は、弟を殺して美枝子にその罪を被せることに決めた。大企業の御曹司として生まれた選ばれた人間で 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:最強のボーイズ 制限時間:15分 読者:18 人 文字数:835字
"白騎兵"の名を知らぬものは、周辺国にはいないだろう。一騎当千の猛者たちで編成され、戦場を縦横無尽に駆け抜ける白装束の騎馬集団。その正体は、全員が死刑に相当する 〈続きを読む〉