お題:どこかの情事 制限時間:30分 読者:41 人 文字数:1346字

優良チャンネル
 うちのテレビが、どこかのラブホテルに仕掛けられた盗撮カメラにつながっている。
 まるで夢みたいな話だ。しかし事実である。いつから、誰が、なんのためになんて知る由もなかった。一人暮らしなのもあって戸締りはしっかりしていたはずだし、合鍵も作ったことないし、家にあげた人間にこんな悪質なことをするやつはいなかった。と、思う。
 とはいえ、俺は一人暮らしである。そう、幸いにも一人暮らし。つまり、テレビをつけてそれが映るチャンネルに合わせて、そこで行われる情事を見ていても、誰も俺を咎めないのだ。天然素材をおかずにできるとはなんと贅沢な。しかも高画質で、複数のカメラが、絶妙な位置に仕掛けられているらしく、求めている画面がいつも確保されている。その画面の切り替えは自動なのか、手動なのか。そこがまた少し気味が悪いのだが、俺はその部屋で行われる行為のほうが気になった。しかたない、それが目的でこのチャンネルを使うのだから。

 今日の客は、顔立ちもスタイルもいい男と、少し肌の露出が多めの小柄の女の子だった。女の子は部屋に入るなり持っていたリュックをおろして中身を広げ、なんとセーラー服に着替えた。さきほど着ていた服よりもそちらのほうが似合っているし、よく見れば結構幼い感じがする。……まさか、エンコーか? と一抹の不安がよぎるが、すぐにそれがどうした、と俺の中の悪い俺がささやいた。結局この映像の中で起こっているのは、どこかの知らないラブホテルの部屋にいるやつらだけの問題だ。それを見てるだけの俺はなんら関係ないだろう、と。それもそうだと自分で納得した俺は、男の用意したコップの水で錠剤を飲む女の子を無表情に見ていた。
 二人は交代で軽くシャワーをしたあと、さっそく行為を始めた。セーラー服のまま、半裸になった男にベッドに押し倒される女の子。弱弱しい細腕が男の体を掴んでいる。男は少し乱暴に、女の子の服をまさぐり、好き放題にしていた。
 やがて事はエスカレートし、セーラー服もスカートもめくれあがり、そこからはいつも通りの交わり。女の子は少し苦しそうな顔をしていたが、男は構わないで自分の思うままにしていた。
 その背徳的な情事が終わると、男はさっさと服を着ながら、財布から数枚の札を取り出し、女の子に手渡した。女の子はそれを数え、少し不満そうな顔をして、人差し指を男に示した。すると男はもう一枚万札を取り出して彼女に与えて、ちょっと不機嫌そうに出て行った。
 女の子はその後、疲れた顔で札をもう一度勘定して、安っぽい財布の中にしまった。そしておもむろに立ち上がり、けだるげに服を着替え始める。

 そこまで見て、俺はチャンネルを変えた。明るいバラエティでも見ようと探している間、頭にこびりつくようによみがえってくる先ほどの情事。あの女の子は初恋だった子に似ている気がした。

 だが、あのチャンネルは、所詮どこかのラブホテルで見知らぬ誰かの情事が行われているだけである。俺にはなんの関係もないのだ。

 一か月後、わりと高額な請求書がテレビ会社から届いた。
 視聴している間、料金が発生する有料チャンネルだったらしい。
 その日から俺は、おとなしく一駅隣のレンタルビデオショップに通うことにした。
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