お題:赤い神話 制限時間:30分 読者:35 人 文字数:1461字

血は赤い
 私は一度も怪我をしたことがない。
 このことを他人に告げると、皆口をそろえて嘘だと言う。しかし、事実であるからしかたない。私の両親によれば、私は他人と比べて体が弱く、普通の人であれば問題のないかすり傷でも失血死するかもしれない体質らしいので、絶対に怪我をしてはいけないのだ。両親は、私が怪我をすることとしないことの分別がしっかりできるようになるまで、徹底的に保護してくれていた。だから、この年になるまで、血を出すようなことは一回たりともなかった。
 こんな体質だから、外に出ることも少なく、友人たちと遊ぶこともほとんどなかった。しかし、おととい、初めて友人から外で遊ばないかという誘いがきた。両親に相談して――その友人が責任感があり信頼もできる人物であることの確認をされたが――許可を得ることができたので、私は初めて、今日、外に遊びに出ることになったのである。
 世間は冬だった。夏のように身を守れない軽装ではなく、しっかりとした分厚い生地の服で全身をくまなく埋めても、まったく暑くない。とてもありがたい季節だった。

「藤次、ごめん遅れた!」
「あ、いや、僕も今来たところだから」
「はは、なんかカノジョみてえ」

 約束の時間に五分遅れて、彼は到着した。伊谷将。僕の五年来の友人だ。彼は暑がりだからか、私よりずいぶん薄く、寒そうな恰好をしていた。マフラーでも貸そうかと提案したが、彼は蒸し殺す気か、と笑って断った。

「それで、結局今日はどこに行くの?」
「怪我しちゃいけねーって聞いたから、景色眺めながら茶でも飲むかと思って。あのハイビル行こうぜ」

 彼があのハイビル、と言って指さした建物を見て、私は拍子抜けした。なんだ、結局外と言っても、あまり動かないんじゃないか。それなら家に彼を招いたほうがよかったかもしれない。――と、そんなことを考えてしまったが、外の景色に直接触れていることが大切なんじゃないか、と思い直して飲み込んだ。
 ビルの中のカフェは落ち着いた雰囲気で、若くない大人たちがぽつぽつと座っていた。この中で一番若いのが私たちなので、なんとなく居心地が悪いな、と一瞬感じたが、大窓に面したカウンター席に座ると、それも気にならなくなった。
 適当な軽食を注文し、先に着いていたマグに注がれたコーヒーを飲む。

「あ、おいしい」
「だろ? てか、藤次。外食初めてだろ」
「うん。外食って、なんか、そわそわする」
「だろうな。俺もこの店、適当に選んじゃったからさ、金ギリギリである意味そわそわしてるんだけど」

 冗談めかして財布の小銭と札を確認する彼に、足りなければ肩代わりすると伝える。すると彼は笑って、

「ばーか。大丈夫だよ。そう簡単に他人に金貸すなよ」

 そういうところも含めてこれから教えてってやらんとな、と言って、彼は次の遊びの予定を考え出す。取り出されたスケジュール手帳はいろいろな色で埋められていて、そのどれもが彼の予定なのかと思うと、よく体がもつな、と感心してしまった。

「あ、そうだ。藤次、お前リップクリームって知ってる?」
「リップクリーム?」
「知らないだろうな。お前唇カッサカサだし。そのままだと切れるぞ。俺も今さっき切れたし」
「えっ」

 ほら、こうなる前に買って塗れよ。
 そう言って自分の唇の端に固まった赤錆色を指した伊谷を見て、私は心配になって自分の唇に触れた。血が出ていないか、指を唇で一周させる。

 唇から離して見た指先には、鮮やかな青い液体がついていた。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:しぐれる お題:赤い神話 制限時間:15分 読者:94 人 文字数:856字
むかしむかし。かみさまは。あかいなみだをながしまして。まっかななみだをながしまして。とおくとおくへながれていって。そしていのちがうまれたのでした。「赤鬼、とお 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:赤い神話 必須要素:結婚相談所 制限時間:15分 読者:115 人 文字数:773字
一人の男が歩いていた。「今日も、駄目だった」そう、落ち込んだように呟く男の、その姿は異様だった。道行く誰もが、振り返る。その様相は、一言で言うのなら赤だった。帽 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:気向行夫 お題:日本電話 制限時間:30分 読者:6 人 文字数:608字
高校で友達の佳代子と昼食をとっていると、こんな話があった。「高校の近くにある〇〇公園の電話ボックス、出るんだって」「でるって……何が」「決まってるじゃん、幽霊 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:メジャーな墓 制限時間:30分 読者:20 人 文字数:1222字
空は青い。空気はじわじわと迫ってくる。蜃気楼のような空気が震えている様子も見える。ただ僕は汗をかきながら、空を見ている。夏だ。大嫌いなこの季節がやってきた。蝉が 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:みぺこ お題:ぐちゃぐちゃの処刑人 制限時間:30分 読者:19 人 文字数:325字
白銀の光を残して刃が駆ける。 街を埋め尽くす異形の群れ。高層ビルを臨む空からは奇怪な体躯の鳥が。路地裏からは目を血走らせ、六の手足を生やした狼が。灯りを失った 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:東京の探偵 制限時間:30分 読者:7 人 文字数:1254字
「ここで僕の推理、聞いてくれませんか?」部屋の真ん中辺りを歩きながら探偵はにっこりと笑う。その推理は確実で、忠実で、繊細。だからこそその答えが導かれる。皆は彼を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:つきもぐら お題:戦争と貯金 制限時間:30分 読者:8 人 文字数:1172字
戦争と貯金にはお金の使い方で対照的でありながら連関している気配がする。我々の貯金は銀行によって運用されるが、最終的にどこで使われているのだろう。日本の国債はア 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:つきもぐら お題:戦争と貯金 制限時間:30分 読者:17 人 文字数:1353字
さきほどグーグルクロームが停止し、書き終わりかけた文章は終了間際に消失した。PC上で作文するものにとっては必ず経験する絶望感に襲われるが、即興小説は停止を許さ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:マンネリな川 制限時間:30分 読者:5 人 文字数:1373字
あるところに川がありました見た目はごく普通だけど、実はこの川の中には肉食な魚がたくさんいるらしい少し濁っていてどのくらいの深さなのかは見当もつかないそんな川に散 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:mas お題:意外!それはハゲ 制限時間:30分 読者:6 人 文字数:508字
小野頭通りの天気は、このところ雨が続き、ダンスパーティに遅れそうな小鳥の急ぎ足のような音を盛んに響かせていた。車の上げる水しぶきの音は世界の終わりを告げるために 〈続きを読む〉

ムチルダの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:ムチルダ お題:どこかの情事 制限時間:30分 読者:41 人 文字数:1346字
うちのテレビが、どこかのラブホテルに仕掛けられた盗撮カメラにつながっている。 まるで夢みたいな話だ。しかし事実である。いつから、誰が、なんのためになんて知る由 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ムチルダ お題:赤い神話 制限時間:30分 読者:35 人 文字数:1461字
私は一度も怪我をしたことがない。 このことを他人に告げると、皆口をそろえて嘘だと言う。しかし、事実であるからしかたない。私の両親によれば、私は他人と比べて体が 〈続きを読む〉