お題:理想的な宿命 制限時間:30分 読者:32 人 文字数:633字

知らなくていい
それは誰もが望む最後だった。
地位に名声、富に美貌。美しくたおやかな妻を持ち優秀な娘と息子に見送られた。だから、誰もが彼の死を満たされたものだと疑わない。彼は、本当にしたかったことを何もかも捨て置き、「理想的」という親に決められた道を歩いて死んだのだ。
俺は知っている。彼は本当は小学生が読むような冒険の物語が大好きで、世界中を旅をして回ってみたいと言っていたこと、本当は学校が苦手で、1人で静かに勉強して居たかったこと、切れ長の目でキツそうな外見の割にウサギやネコに大はしゃぎしていたこと。数えきれないほど君は嘘をついて生きてきた。
その中でもとびっきりのゴシップは君が僕を愛していた事だ。
高校2年の夏、蒸し暑い部室の中で謝りながら僕を抱いた君の瞳はいつもの何処か虚ろさは何処かに消え、剥き出しの感情がただ、俺にぶつけられていて拒む事ができなかった。いや、したくなかった。
その日以降、彼と俺との縁は徐々に消えて行ったが誕生日に送られてくるシロツメクサの花だけが俺と彼を繋いでいた。
「毎年毎年性懲りも無く馬鹿なやつだ」
一言言ってくれれば良かったんだ愛してるって、その言葉さえあればお前のために全て捨てても良かったんだから。お前のことを誰よりも思っていたよ。
彼が死んだのは、俺がお前に会うことの出来る同窓会の1日前のことだった。良かったよ、あの時死んで。俺に人生狂わされずに済んだんだから。
玄関に置かれた枯れたスターチスの花言葉なんてお前は知らなくていい。
作者にコメント

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