お題:小説家の娼婦 必須要素:美しい情景描写 制限時間:1時間 読者:40 人 文字数:1989字 評価:0人

滑稽な女
小説家になることが夢だった。

文字から想像力を膨らませ、楽しませてくれる。読み手によって登場人物のイメージも違えば、捉える心情や風景も異なる。何て素敵なんだろうか。

きっかけは、たまたま読んだ物語。

主人公はとある国のお姫様。美しい容姿を持ち、色んな国の王子様から求愛されていた。
しかし、お姫様は既に好意を寄せる相手がいる。それは幼馴染の兵隊。最初から好きだったわけではない。彼の無邪気な所に惹かれた。
だが、幼馴染は他の女性と結婚した。主人公は自らの思いも伝えられず、日々泣いて暮らした。

…そんな昔読んだ物語を思い出しながら、私は天井の一点を見つめていた。激しい動きに揺れる身体、お腹にくる痛み、荒い息遣い。

「何考えているんだ?」

必死に腰を動かす獣は、汗を流しながら私に問う。本来は愛し合う二人で行うはずの行為を、私は愛してもいない男としている。

「小説のネタを考えていたの」

「そんな余裕あるのか?」

私が素っ気ない反応なのが気に入らないらしい。必死に腰を動かすこの男は、私の小説を売り出す商人だ。

そう、私は夢見た小説家となり本を売った。

---しかしそれと同時に自らの身体も売った。

「最初の頃は取り乱して、暴れまくっていたのにな。今では面白味もない。つまらない奴だ」

そう言いつつも動きが止まることはない。果てるまでやるだろう。私は目を閉じた。

自分の本を売るために、媚を売っている私は何て滑稽なのだろうか。



行為が終わり、男は裸で眠りについた。私はさっさと身体を洗い、自宅に帰る準備をする。用意されていたお金を鞄にしまい、部屋を出た。既に昼になっていた外は明るく、太陽が私の目を刺激する。

「あの」

自宅前に着いた頃、一人の青年に声を掛けられた。

「貴方が、この本を書いている人ですか?」

青年は私が書いていた本を手に持ち、見せて来た。まさかここで初めて、執筆した本を持っている人間に出会った私は、何とも言えない気持ちになった。

何とか、頷いて見せると青年は嬉しそうな表情に変わる。

「僕、貴方の本が好きで、感想をどうしても伝えたかったんです!でも直接話すのはお時間ないかと思って。だから、手紙を書きました!読んで下さい!」

そう言って渡された手紙。嬉しい気持ちと同時に、本のためとは言え身体を売った後の私はこの手紙を受け取るべきか悩んだ。

戸惑っていると、青年の表情が暗くなる。あまりにもわかりやすい青年の態度に拍子抜けた。

「…ありがとう。嬉しいわ。有名でもない私の物語を好きになってくれて」

微笑んでいるだろうか、私は。引きつっていないだろうか。そんな心配をしながら手紙を受け取ると、青年は突然手を握ってくる。

「そんなことありません!先生の物語は僕の中で世界一です!」

熱意がこもった眼差し。かつての、私の本を魅力的と言ってきたあの男と重なった。
さっきまで私の身体を買って、欲を満たしていたあの男と。

礼を言って自宅に戻った私は眠った。手紙は読めなかった。



「先生!こんにちは!」

青年は再び訪れた。手には花束。

「何その花束は」

「美しい先生に似合うかと思って…!良かったら貰って下さい!」

「気持ちだけ受け取っておくわ。ありがとう。綺麗なお花ね…。でも私は受け取れないわ。何せ手入れできないからね。貴方の家で飾ってあげて」

やんわりと断った。青年は始めは肩を落として帰っていたものの、それから毎日やってくるようになった。ある日はクッキー、ケーキ、飴玉、茶葉等、様々な贈り物を用意してくる。

「何故そんなに持ってくるの?」

ふと私が疑問をぶつけると、彼は無邪気に微笑む。

「先生が喜んでくれたら良いなぁって。何だったら喜んでもらえるか、僕は知りたいんだ」

非常に単純なことだった。でも、その純粋な気持ちに私は折れた。

それから毎日訪れる青年との時間が私の楽しみになった。そして気付いた。この人と一緒にいたい、と。



「先生、好きです」

告白されたのは突然のことだった。嬉しい気持ちと同時にやってきた、罪悪感と自己嫌悪。そしてあの男が浮かぶ。

すぐに頷くことができなかった。

「実は私…」




あの物語のお姫様。
幼馴染に告白したけれど、拒絶されたお姫様。
悲しくて仕方がなくて、愛する人を殺めたお姫様。

今なら私もその気持ちが理解できる。

隣で眠る彼は綺麗だ。
私の過ちを話した時の彼の顔を、私はきっと忘れない。

拒絶されたくなかった。ただそれだけだった。

「おやすみなさい、好きになった人」

私は彼を今度書く物語の主人公にしようと思う。そしてその主人公は小説家であり娼婦である女に恋をして殺される。

嗚呼、何て滑稽な物語だろう。

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