お題:左の神話 制限時間:15分 読者:20 人 文字数:1057字

愚かな右利き
 左利きの人は天才が多い。
 そういう風潮が、南タモツは嫌いだった。
 彼は左利きであるが、ちっとも天才ではなかった。
 それなのに、人は左利きであるというだけで、タモツを持ち上げるのだ。
 そして、彼が平々凡々であることに気付くと、落胆したようにため息をつき、今度は排斥し始める。
 「並んでご飯を食べると邪魔だ」とか、「右利きじゃないから字が汚い」とか、そういう叩く理由を見つけては、タモツを追い詰めてくる。
 挙句、「右利きに矯正されなかったってことは、育ちが悪いんだね」なんて面と向かって言ってくる者すらいた。
 勝手に期待して、勝手に落胆して、更には人格攻撃なんてどうかしている。
 左利きが天才が多いという風潮以上に、タモツは愚かな右利きたちが嫌いだった。
 そもそも、この世は右利きに生きやすいように作られすぎている。ハサミやリングノートは元より、改札機や座席のつくりに至るまで。右利きが多いからと言って、ここまで物を右に置かなくてもいいだろう、と思う。
 左利きの人に天才が多い、のではない。右利きが愚鈍過ぎるのだ。
 タモツは最近、そう思うようになった。

「へえ、南くんって左利きなんだ」
 またか、とタモツは思った。
 声をかけてきたのは、同じ英語のクラスを履修している喜多川という女子生徒だった。
「わたし、左利きって憧れてるんだよ」
「なんで?」
 え、と喜多川は言葉に詰まる。詰まらせるほどに、タモツの返事は不機嫌だったから。
「だって……ほら、かっこいいし」
「どこが?」
 喜多川は下を向いた。
「ごめん、何かウザいよね、わたし……」
 タモツは「そうだな」と言いたくなったが、それを止めるぐらいの心の温度は持っている。
「いつもさ、わたし思うの。個性的な人間になりたいって」
 喜多川の見た目は、それに反しているとタモツは思った。量産型女子大生、だなんて言われて、ネットにさらされそうな格好をしていた。恐らく、キャンパスですれ違っても、彼女だと同定することはできないだろう。
「だけど、全然できないから……」
「左利きなんていいことないよ」
 タモツはそれだけ言って、席を立った。そろそろ次の講義の教室に移動せねば。
「わたし、左手で字書くの、練習しようと思ってるんだけど、コツとかって……」
 タモツは振り返らなかった。コツなんて知らない。こっちは生まれつきなのだから。
 個性か。タモツは歩きながら自分の左手の平に目を落とす。
 そんなものこの世界では、凡庸よりも酷いものだ。
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