お題:強いお天気雨 必須要素:新聞 制限時間:30分 読者:37 人 文字数:1297字

誰かの悪戯(マスターと死体たち)
 
 レイシフトした先は21世紀の日本だった。自分が良く知る文化圏の、本来の生活圏に殆ど一致している首都圏の駅構内に立っていた。一緒にレイシフトした英霊が妨害で近くにいない、通信が取れずに完全に孤立しているという考えられる最悪の展開で飛翔した自分の目の前には死体があった。ひとつどころではない。目に見える限り戦争でもあったかのように死んでいた。みんな。
 死体は見慣れている。人理修復を遂行した際に嫌というほど目にしていたはずだった。しかし、いざ自分のよく知っている土地で、同じような人種の人間たちがパンデミックのように大量死している様は衝撃的だった。駅のホーム、天井付近に釣り下がっている古めかしいアナログ時計を見る。時刻はおそらく午前中だ。10時27分。おそらく通勤ラッシュの時刻をやや過ぎたころあいで、何者かがここを襲撃したらしい。足元は大量の鮮血があって、靴の中にまで浸されそうであった。無意識に口呼吸をしていることに気付き、視線だけで辺りを観察し、いつ襲撃されるかもわからない緊張感の中で一歩ずつ、音を立てないように移動した。ホームから会談を上り、駅構内に入り、改札を抜けて外に出てみる。耳が痛いほど静かだ。もう誰でもいいから、怪物でもこの微特異点の原因たるものでもいい。魔神柱でもいい。誰かのいたずらでもいい。理由が欲しい。自分がみせられているものの理由が欲しいんだ。

 初夏なのか、じとっとした空気が、よけいに体温の調節を促していて背中が汗でぐちゃぐちゃだった。ぼんやりとしながら駅前の広場のベンチに腰を掛けて付近を眺めることしかできなかった。自分は無力だ。赤ちゃん、幼稚園児、学生、社会人、もしかしたら自分の親と同じぐらいの年の人、お年寄り。みんな地に伏して、頭をつぶされ、目を見開いて天を見て、内臓を零しながら、壊滅的に体がバラバラになって、何かに食べられたように抉られて、ただ存在している。ふいに教科書かどこかで見たような絵画が頭を過った。中世の、確かスラブ系の画家が描いたものだ。きれいな死体が草原に積み重なっているのを騎士たちが眺めていたような気がする。少し前の時刻でも、週刊誌などで普通に航空事故死体写真が載っていた。おそらく現代では中南米、コロンビアあたりではまだそういった雑誌が生き残っているかもしれない。ただ、機械化が発達するなかで、その犠牲となる死体は相対的に悲惨さを増す。あまりにも衝撃的で昔とは比べ物にならないくらいに悲劇的過ぎて今では死体なんて全くなかったかのように全然見れなくなってきたのだ。自分ですら、人理修復に関わるまでは本当に死体なんかあるのかと疑うくらいに、不自然に隠蔽されていたモノが、今、突きつけられている。それはあまりにも不可思議に清らかな空間だった。唐突にすべてを洗い流すように、自分を嗤っているように雲一つない空から雨が生臭い雨が降り注ぐ。日光が水滴に反射して世界があまりにも眩しかった。自分は無力だ。何もなすことができない。ベンチの近くに落ちていた血濡れの新聞紙が一瞬で灰色を増す。日付は2018年6月14日。俺の友達、元気かな?
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:強いお天気雨 制限時間:30分 読者:139 人 文字数:923字
風が強かった。その日は風が強かった。僕はそんな風が強い中、しかも晴れているのに雨が降っている中、自転車を漕いでいた。雨と言っても小雨だった、けれど強く吹いてい 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:かわうそちゃん(基礎) お題:狡猾な悲劇 必須要素:新聞 制限時間:30分 読者:136 人 文字数:418字
通勤途中に買ったスポーツ新聞をみるとスキャンダラスな記事が目に飛び込んだ「国会議員の◯◯◯不倫発覚」まあ、いまどき不倫なんてゲスなんちゃらとかで慣れてたんだけど 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:よしづきゆうら お題:反逆の芸術 必須要素:新聞 制限時間:30分 読者:94 人 文字数:894字
「お客さま」 受付の女性は見本のような笑顔をつくって彼にむけた。「バイタルが乱れているようです。お加減がわるいようでしたら、チケットを別の日に振り返ることもでき 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:はろー お題:哀れな情事 必須要素:新聞 制限時間:30分 読者:165 人 文字数:341字
「新聞ってさあ、毎日毎日すごい量生み出されてさ、毎日毎日捨てられてってるわけでしょ」「うん」「すっごい無駄だなって思うよね」「そうだね」「でもよく考えたらさ、ほ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:応滝さん二代目 お題:悔しい殺し屋 必須要素:新聞 制限時間:30分 読者:135 人 文字数:761字
「ワトソンくん、ゲームの話をしよう」「だから先輩、ワトソンって呼び名やめてくださいよ」先輩はいつだって突然だいつだって当然にボクの前で自身たっぷりにこう言うのだ 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:錫型 お題:死にかけの挫折 必須要素:新聞 制限時間:30分 読者:123 人 文字数:1083字
俺は絶望のどん底に叩き落されていた。引きこもり歴35年、いない歴=年齢、40を超え、一歩外の世界に踏み出せば「負け組のおっさん」のレッテルを背中に貼られる。もは 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:こころがしんどい系Yさん お題:もしかして挫折 必須要素:新聞 制限時間:30分 読者:124 人 文字数:1707字
俺は、割と普通の高校の、しがない野球部員だ。特に強い訳でもなく、弱い訳でもない。だけど、それなりに楽しい毎日を過ごしている。俺は小さな頃から野球が大好きだった。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:チワワグラタン お題:運命の夫 必須要素:新聞 制限時間:30分 読者:177 人 文字数:1445字
あなたの運命のお相手、見つけます。新聞に挟まったチラシが滑り出た。でかでかと、嫌らしい蛍光色が目に痛い。「カップル成立100%の実績!」「お相手の細かなご要望も 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:がしゃ お題:死にぞこないの失望 必須要素:新聞 制限時間:30分 読者:162 人 文字数:1688字
またですか・・・・・わたしはいつもこう。誰かに期待しては裏切られて。誰かのために生きようとすれば利用されて。いい加減学べよって雄太は行ってくるけど。今日みたいに 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:目島 お題:憧れの光景 必須要素:新聞 制限時間:30分 読者:203 人 文字数:1610字
それはよくあるお話。 あるところに、二人の巫女がいました。一人は光の巫女、もう一人は闇の巫女と呼ばれていました。二人の巫女はそれぞれが光の宝玉と闇の宝玉を守護す 〈続きを読む〉

塵難民キャンプ地の即興 小説


ユーザーアイコン
作者:塵難民キャンプ地 お題:強いお天気雨 必須要素:新聞 制限時間:30分 読者:37 人 文字数:1297字
レイシフトした先は21世紀の日本だった。自分が良く知る文化圏の、本来の生活圏に殆ど一致している首都圏の駅構内に立っていた。一緒にレイシフトした英霊が妨害で近く 〈続きを読む〉