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お題:つらい「えいっ!」 必須要素:コミケ 制限時間:1時間 読者:23 人 文字数:2422字 評価:0人

女の醜いあれこれ
 少女漫画が趣味な私はコミケに行き、大量の同人誌を手にしていた。私はまだ小学六年生。コミケの帰りに最寄りの公園に寄った。大きな池と岩がある。
「えいっ!」
購入した雑誌を地面に置き、私はもう一方の岩へ飛び移る。どうにか倒れずに済んだ。顔を上げ、晴れやかな気持ちで堂々と太陽に向かって行く。光は眩しく、体が熱く火照ってくる。
 池に私は少々つらい気持ちで、故意に自分の帽子を落とした。近くにいる女性に声をかける。
「お姉ちゃん、帽子が池に落ちてしまったの。取ってくれない?」



 装飾を省いて、シャープで都会的な印象の部屋だった。床や壁、家具はモノトーンで統一されている。直線を活かしたデザインのアイテムや金属、ガラス、レザーなどの光沢のある素材を取り入れているスタイリッシュな部屋。落ち着いたグレーをベースにクールなカラーでまとめられた寝室。床にはカーペットが敷かれ、ヘッドボードにはファブリックなパネル。所々に柔らかい質感や自然素材のものを取り入れることで、温かみのある寝室になっていた。
 彼の部屋はいつだって、素敵だ。
 焼きたてのパンの匂いが漂ってきて、窓のわずかな隙間から入り込む。彼が仕事に出かけて行った。
「行ってらっしゃい」
 彼は誰よりも美しく歩く。完璧にまっすぐで長い足。彼は背筋を伸ばし、歩を進める。
 変わりばえのない月曜日。ああ、頭痛がぶり返してきた。私は呆然と立ち尽くす。隙間風が蛇のようにちょっかいを出してくる。私は寝癖の髪をぎゅっと撫で付けた。
 両手をポケットの奥に突っ込んで、シワの寄った裾をアスファルトに擦りながら、埃まみれになって歩いて行く。通りのショーウインドーに全身を映す。何も映らない。虚しさでいっぱいだった。だけどこの強烈な虚無感で寒さを忘れられる。私たちは色々な出来事をひたすら体験するように定められているのだろうか? 人間の一つ一つの体験の意味など誰にもわからない。なぜ、人は人を愛するのか。なぜ嫉妬を感じるのか。なぜ愛は冷めるのか。なぜ孤独を感じるのか。
 夕方、彼は女性を連れて、帰ってきた。彼女の顔は上気し、髪は美容院から出てきたばかりみたいにしっかりとカールされていた。
 私は彼女のせいで厄介払いされた。彼との思い出も全て消し去りたかった。自分の体をバラバラに引き裂いて、自分自身を捨てたいと思った。
 そう思っていた時に、ちょうど通り魔に遭遇した。通り魔は乱暴に私に襲いかかってきた。私は自分の体にナイフが刺しこまれていくのを冷静に見ていた。体のあちこちに穴が開いて、血が吹き出していた。うめき声を上げて、すぐにこの肉体から離れ、あの世に行くつもりだった。肉体は死んでいるのに、魂はこの世に居座るという何とも、宙ぶらりんな状態になってしまった。そして私は愛していた彼の部屋にとどまり、女との甘い生活を見せつけられている。

 なぜちゃんと成仏できないのかはわからない。私と同じような存在を時々、大通りで見かけた。成仏できないわけを私は聞いた。
「この世に未練があるからじゃない?」
金髪を風になびかせている女性の幽霊は一風変わった天使のように見えた。
「あなたの未練は何?」
聞こうとしてやめた。きっと幽霊にだって、プライバシーはある。幽霊仲間の友人たちもできた。彼らはいつも不意に何処かからやってきた。皆、出会ったことのないようなタイプだった。互いに顔を合わせ、もっぱらおしゃべりに時間を費やすだけだった。誰も成仏問題を口にしない。私はだんだん、友人たちを好きになっていった。

 色々考えた末、結局、私は彼の家にいることにした。時計など見ないで、流れる時間に身を任せている。彼女のハイヒールのきしんだ音が聞こえ、傍に歩いている彼がなぜか彼女を攻めていた。ガチャリとドアを閉めると二人の言い争いが始まる。
「リカ、お前は恥ずかしくないのか? 友人の遠子が浮気しているなんて嘘をついて、俺に取り入るなんて」
「だって、あなたの彼女になりたかったんだもの」
「俺が迂闊だったよ。遠子は通り魔に刺されてしまった。謝るにも謝れない」
彼は頭を抱えていた。私は自分の魂がふわっと浮き上がるのを感じた。厄介払いされたのは、友人のリカの策略だった。真相がわかった私は未練がなくなったのか、成仏するときがきたような気がした。

 目覚めた私を光のベールが包み込んでいた。私は成仏できたんだろうか?
 と、思った瞬間、彼の声がした。
「ごめん、遠子。俺が悪かった」
私は当惑した。ここはあの世ではないのか? 今日はいつもと全然違う。いつもは体が随分軽くて広い空間にふわふわ漂っているように感じたけれども、今日の私の体はベッドに固定されている。
「私は一体?」
「通り魔に刺されて、ずっと意識を失っていたんだよ。目覚めてくれてよかった。リカにはめられたんだ。君のことを誤解していて悪かった」
そう言われても……。こんなに女性にフラフラする男はもう御免だった。
 彼が帰った後、すごい形相でリカが病院にやってきた。手には出刃包丁を持っている。
「あんたさえいなければ、あんたさえいなければ!!」
狂ったように包丁を振り回し、私の体を切り裂いて、バラバラにしている。血まみれになった私はそっとリカに微笑んだ。
「ありがとう、リカ。これで成仏できそうよ」
私の心は安寧で満たされていた。



 私はなぜかすぐに生まれかわった。成長して小学六年生になっていた。公園の大きな池にわざと自分の帽子を落とす。
「お姉ちゃん、帽子を落としてしまったの。取ってくれない?」
「いいわよ」
背を向けた女の背中を思い切り、押した。池に落ちた女が悲鳴をあげる。
「誰か助けて」
沈んで行く女の姿を見ながら、私は微笑み、呟いた。
「因果応報ね、リカ」

                             終わり
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