ユーザーアイコン
お題:女の海辺 制限時間:15分 読者:122 人 文字数:798字

あなたの海で眠りたい ※未完

 人魚の子を身篭った。
 孤独な身の上、それも自営業だったので、誰にも説明を求められはしなかったが、切実な問題として、産むのに良い場所がなかった。人間の病院には掛かれないし、自宅出産で助産師に立ち合わせる訳にもいかない。運が良ければ助産師が気絶している間に逃亡できるとして、運が悪ければ私の子は単なる奇形児として、抱き上げる前に殺されてしまうだろう。それは御免被りたかった。結論としては一人でどうにかするしかない。私は妊娠と出産に関する本と、海で生きる哺乳類の生体について書かれた本を片っ端から読み漁り、ほどほどに寂れた海辺の地方都市へ移った。妊婦一人での移住が目立たない程度には都会、けれど人目に付かない海辺と岩場と洞窟がある程度には田舎。ギリシア神話のように幾つかの洞窟に門前払いされた後で(入口のない洞窟、満潮時に水没する洞窟、切り立った崖に囲まれてボートを木っ端微塵にしかねない洞窟)、ようやく、身重の身体でも侵入できる優しい洞窟を見つけた。分娩は長くはかからなかった。人魚の子とはそういうものなのかもしれない。私の心配と、何日も掛けて運び込んだ無数の道具はほとんど出番がなく、ひどくあっさりと生まれた子供は、私の方を一瞥もせずに洞窟の外へ泳いでいった。哺乳類ならもうすこし親子の情というものがあっても良いと思うのだが、人魚の心は分類上は魚類に属するのだろうか。一度に百万も生まれて、数百生き延びればよいという命の形に?
 ともあれ、私は半日ほど休んでから町に戻った。責任を果たしたような気分でせいせいしていたし、もうこれで厄介ごとはすべて終わったと感じていたのだ。大間違いだった。
 人魚の子は、季節が一巡りするたびに、恐ろしいような声で、私にだけ聞こえる声で、私を呼んだ。それは赤ん坊の鳴き声を百人ぶん束にしたよりももっと鮮烈だった。私に逆らう術はなく、毎年のように、あのどうくつ
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:おじゃまたくし@ログイン用 お題:女の海辺 制限時間:15分 読者:104 人 文字数:329字
海辺に貝殻が一つ、転がっている。何度も波に攫われそうになりながら、それでもそこを動こうとしない貝殻。それをぼーっと見つめる一人の女。周りの音は耳に入らない。私の 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ダツ お題:間違った幻覚 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:1005字
寝ていたはず。寝ていたとは思いたい。だからこれは、夢である。夢じゃなきゃ困る。いや本当に、夢だよなこれは。うん。 これが例えば、ふと横を見たらクラスメイトのそ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ダツ お題:肌寒い祖母 制限時間:15分 読者:7 人 文字数:912字
あれだけ暖かかったおばあちゃんが、冷たくなっている。 棺に納められている姿は、ただ寝ているだけと勘違いしそうになる。しかし、あたしはおばあちゃんの寝ている所な 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:荒ぶるいがらっしー お題:斬新な克服 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:494字
お前、それ苦手だって言ってなかったっけ、と友人に声をかけられたので、そうだよ、と返した。目の前にあるのは大嫌いな魚の煮付け。「ついに克服する気になったか。まあ食 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:破死竜 お題:斬新な克服 制限時間:15分 読者:9 人 文字数:1153字
「サイコロを振る」 「はい?」 「出た目の順番に会った相手にケンカを売りましょう」 「えー?」 人生に行き詰ったので、クスリと宗教とマルチと風俗とオトコとオン 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:犯人は霧雨 制限時間:15分 読者:1 人 文字数:307字
昨夜の天気は曇り時々雨でした。かろうじて居場所の知れる月が薄い霧を浮かびあげ、視界を可視化された月光で隠していたでしょう。 光というのは、本来、見えないものを 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:死にかけの光 制限時間:15分 読者:2 人 文字数:52字
「……あと20%です。」「…あと10%です。」「5分後にスリープモードになります。」「おやすみ」 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:イトカ/欄橋(らんばし) お題:遠い宗教 制限時間:15分 読者:7 人 文字数:1290字
0と1。その境にあるものは、果たしてなんなのか。曖昧という言葉に隠されたもの。それは、真であり、裏である。では、0がいくつ並ぼうが、1がついていれば1なのだろう 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:わたしの好きな音 制限時間:15分 読者:0 人 文字数:694字
私には好きな音がある。それはふとした時に聞こえてくる、一つのフレーズ。同じものがあっても同じ響きは、そして同じ意味は無い、誰もが持っている音。そう、本当になんて 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
男浪漫 ※未完
作者:匿名さん お題:薄汚い螺旋 制限時間:15分 読者:0 人 文字数:165字
ガリガリガリガリ、と音が鳴る。土塊を砕き、空気に溶かす。それは、積み上げたモノの悲鳴、または歓喜。先に逝くぜ、とでも言うように。ここでは輪廻転生が流行っているら 〈続きを読む〉

の即興 小説


ユーザーアイコン
作者: お題:求めていたのは液体 制限時間:15分 読者:52 人 文字数:674字
人間たちは知らないことだけれど、南極には雪の女王が住んでいる。 彼女は、童話に語られるとおりに美しく、童話に語られるとおりに孤高で、そして童話に語られたのと 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:ワイルドなライオン 制限時間:15分 読者:43 人 文字数:333字
それは季節性の流行病のように、一年に二度ほどやってくる。 とてつもなく凶暴な、誰彼構わず当たり散らし、暴言を吐き、目につくもの全てを片端から壊してしまう、どう 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:初めての娼婦 制限時間:15分 読者:51 人 文字数:158字
私の身体を通り抜けたものは、快楽の代わりに忘却を得る。 どんな記憶も望むままに忘れられる。忘れてしまいところだけを的確に、覚えておきたいところには傷一つ付けず 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:おいでよ食器 制限時間:15分 読者:45 人 文字数:260字
小さな博物館の常設展、その片隅、観光客もよほどの暇人でなければ立ち寄ることがないようなマイナーな区画が、彼女のお気に入りだ。考え事をしたいときなど、休日の朝か 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:壊れかけのもこもこ 制限時間:15分 読者:85 人 文字数:525字
毛布は良い。何故って、毛布は壊れようがないから。 その絶対的な真理を、ひとは、おそらく生後数ヶ月ごろには、無意識のうちに悟っているのだろう。子供がお気に入りの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:1000のぬくもり 制限時間:15分 読者:72 人 文字数:712字
「終末医療の一貫として」というお題目が無ければ使うことを許されないその医療魔法は、遠い昔の民話を依り代にしていた。一羽一羽が強力な麻酔と鎮静作用を持つ、甘い砂 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:近いお尻 制限時間:15分 読者:109 人 文字数:900字
死者の戻ってくる日、という風習は世界のあちらこちらにある。 東の島国では彼らの送迎まで用意するというし、西の大陸には気が触れるほどの鮮やかな色彩で彼らの帰還を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:刹那のコウモリ 制限時間:15分 読者:124 人 文字数:606字
一秒間の変身能力を手に入れた。 たった一秒。一日の内、たった一秒だけ、私はコウモリに変身できる。 数十冊の魔道書を読破し、怪しげな薬にいくつも手を出し、それこ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:女の海辺 制限時間:15分 読者:122 人 文字数:798字
人魚の子を身篭った。 孤独な身の上、それも自営業だったので、誰にも説明を求められはしなかったが、切実な問題として、産むのに良い場所がなかった。人間の病院には掛 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:暗い心 制限時間:15分 読者:123 人 文字数:758字
火傷だらけの鬼がひとり、森を歩いてゆく。 その晩は新月で、鬼にとって幸いなことに、今にも雨を降らしそうな厚い雲が夜空をみっしりと埋めていた。風も重く、優しく、 〈続きを読む〉