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お題:女の海辺 制限時間:15分 読者:16 人 文字数:798字

あなたの海で眠りたい ※未完

 人魚の子を身篭った。
 孤独な身の上、それも自営業だったので、誰にも説明を求められはしなかったが、切実な問題として、産むのに良い場所がなかった。人間の病院には掛かれないし、自宅出産で助産師に立ち合わせる訳にもいかない。運が良ければ助産師が気絶している間に逃亡できるとして、運が悪ければ私の子は単なる奇形児として、抱き上げる前に殺されてしまうだろう。それは御免被りたかった。結論としては一人でどうにかするしかない。私は妊娠と出産に関する本と、海で生きる哺乳類の生体について書かれた本を片っ端から読み漁り、ほどほどに寂れた海辺の地方都市へ移った。妊婦一人での移住が目立たない程度には都会、けれど人目に付かない海辺と岩場と洞窟がある程度には田舎。ギリシア神話のように幾つかの洞窟に門前払いされた後で(入口のない洞窟、満潮時に水没する洞窟、切り立った崖に囲まれてボートを木っ端微塵にしかねない洞窟)、ようやく、身重の身体でも侵入できる優しい洞窟を見つけた。分娩は長くはかからなかった。人魚の子とはそういうものなのかもしれない。私の心配と、何日も掛けて運び込んだ無数の道具はほとんど出番がなく、ひどくあっさりと生まれた子供は、私の方を一瞥もせずに洞窟の外へ泳いでいった。哺乳類ならもうすこし親子の情というものがあっても良いと思うのだが、人魚の心は分類上は魚類に属するのだろうか。一度に百万も生まれて、数百生き延びればよいという命の形に?
 ともあれ、私は半日ほど休んでから町に戻った。責任を果たしたような気分でせいせいしていたし、もうこれで厄介ごとはすべて終わったと感じていたのだ。大間違いだった。
 人魚の子は、季節が一巡りするたびに、恐ろしいような声で、私にだけ聞こえる声で、私を呼んだ。それは赤ん坊の鳴き声を百人ぶん束にしたよりももっと鮮烈だった。私に逆らう術はなく、毎年のように、あのどうくつ
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