お題:許せない貯金 制限時間:15分 読者:66 人 文字数:1043字

硬貨
ちりん。
涼しげな音を立てて。
吸い込まれていく。

彼女が初めてぼくを手にした時、綺麗な子だなあと思った。長い髪、大きな目、白い手足。彼女はチョコレートを買って、お釣りとしてぼくを受け取った。レジスターで眠っていたぼくは突然明るい世界に放り出されて、眠い目をこすりながら考えたのを覚えている。
今度は、ぼくはなにに、使われるんだろう。

彼女はぼくをぶたの貯金箱に入れた。大事そうに、そっと入れられて悪い気はしない。たくさんの仲間と一緒に、ぼくは自分がまた日の目を浴びる日を待っていた。
ぼくは彼女が好きだったから、なるべくそばにいたかったから、本当は少しだけ、ずっと使われなければいいのに、なんて思って。でも、彼女が好きだから、彼女がちょっとでも幸せになるために、使われたらいいなって。
わくわくしながらその日を待った。自分が彼女を、笑顔に出来る日を、待った。

ちりん。表で風鈴が鳴る。

夏のあつい、あつい日のこと。ついにその時がきた。
ここのところ彼女は様子が変だった。毎日、疲れているようだったし、泣いていることもあった。
その日、誰かが来ていた。何か言い争うような声がして、そして突然、ぼくたちは外に放り出された。随分窮屈になったぶたの貯金箱が割られたようで。ぼくは久しぶりに浴びた太陽光の、あまりの眩しさに目を瞑る。
「もう、これだけなの」
涙声に目を凝らせば、彼女が立っていた。初めて会った時からもう何年も経っていたから、少し大人びて。髪を短く切り揃えて、手にはチョコレートではなくタバコが握られていて。
と、浅黒く大きな手が無造作にぼくらをかき集めた。
知らない男が、舌打ちと共に彼女を睨みつける。
「ねえ、」
彼女は怯えたように彼にすがりついた。
「わかれるなんて、いわないで」
頭を殴られたような衝撃が走った。彼女は、とても苦しそうだ。男はぼくらを乱暴に封筒に押し込んだ。そしてせせら嗤う。彼女を、振りほどく。
「金の切れ目が、なんとやら、ってな」
ちりん。
鍵が落ちる音がした。多分、合鍵、だ。

彼女を笑顔にする日をこんなにも待ちわびていたのに。最後に見た彼女は泣いていて、ぼくは今、彼女を捨てた男の手の中に。
やかましい音の中、彼はぼくを取り出した。ゲームセンターのようだ。そして自販機に向かうと、容赦なくぼくを投げ入れる。
ちりん。
涼しげな音は喧騒に吸い込まれていく。
出てきた缶ジュースに、毒が入っていることを切に願いながら、ぼくはまた、目を閉じた。
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