お題:商業的な別居 制限時間:15分 読者:21 人 文字数:728字
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種の保存とジュリエット
決定である。決まってしまったものはしょうがあるまい。

Aはこみ上げる虚しさを打ち消すように仕事に没頭した。朝から晩まで仕事のことを考えているほうが、気が楽であった。とにかく体を動かしたかったのもある、何かに逃避をしたかった。


「これは、ビジネスなんです。儲けが出るか、効率はどうか、ビジネスならば当然考えることばかりでしょう」

昨日、政府からの「説明担当」から言い放たれた言葉がぐるぐると頭を回る。彼は仕事に没頭しようとするものの、どうしても昨日のことを考えてしまう。

――Aは新婚である。
Rという女性に初めて会った時、目を見張るほど引き込まれた。一目ぼれであった。
彼女とも会話が弾み、Aは人生で一番の幸せを覚えた。彼女も彼を気に入り、そしてAのプロポーズでついに二人は結婚したのである。結婚式を挙げたのはつい、2か月前のことだ。

「Rさんは珍しい抗体をお持ちの体でしてね。人類存続のため、この抗体を持った子孫を増やしておく必要があるのです。失礼ですがあなた、男性不妊でいらっしゃいますね。大変申し上げにくいのですが、彼女との別居をご理解いただきたい」

Aは茫然としたまま説明を聞いていた。狂った、政府の説明を。
「Rさんと、ほかの男性との間に子供をもうけることも、どうかご理解いただきたく思います」



「人道的にはどうなんですか。僕はもう彼女と暮らすことはできないんですか」

Aは震える声を懸命に絞り出すように、目の前のグレーのスーツを着た「説明担当」とやらに感情をぶつけた。

「同居してくださっても、かまいはしませんが。ほかの男にくみし抱かれる妻をご覧になるのが趣味でいらっしゃいますか?」

―――狂っている。この、世界は。
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