お題:疲れた修道女 制限時間:15分 読者:61 人 文字数:961字

面食い
 教会のなかへ差し込む明かりは天使の降りてくる梯子のようで、跪いて両手を組み、敬虔に祈りを捧げるシスターの姿といったら、侵し難い、この世でなによりも神聖な存在のようだ。彼女の口にする言葉は美しい歌声か、さもなくば聖書の一句が似つかわしいに違いない。間違っても、
「ああ、エナジーが欲しいわ……」
 とか、疲れ切った声音であっていいはずがない。
 シスターの見た目に惹かれてついつい降臨してしまった天使は、天からの梯子を後戻りしようかちょっと迷ったあと、せっかく来たんだしすこしくらいお告げをしていくか、と思い直した。
「君、どうしてそんなに疲れてるの?」
「ああ、天使様……こんな端女のところによくぞ降臨してくださいました」
「謙遜とかはいいからさ。君の見た目と雰囲気につい降りてきちゃっただけだから」
 で、どうして疲れてるのか、とふたたび問えば、もうひざまずくのすら限界と、シスターはよっこらしょと足を崩してじべたに座り込んだ。神聖さがやや失われて、天使はきらめく自分の姿のほうが場違いに思え、そわそわしだした。
「それがですね、天使様。寝不足なんですよ。睡眠足りてないと、人間、疲れやすくなりますよね。いつもの教会の仕事をこなしただけで、この有様です」
「昨夜、もっと早く寝ればよかったじゃない」
「本を読んでいたのです」
 シスターは胸に大切そうに本を抱えていた。教会に常備してある、読み込まれて装丁もボロボロの聖書だった。多少だらしなく見えても敬虔な信徒じゃないか、と幻滅しかけていた天使は安心した。
「ふふふ。天使様でも騙されるんですね。これは神父の目をくらますための『ガワ』でして、中身はこのとおりの恋愛小説です。清貧を旨とする修道院においても、頭を使えばこのとおり、娯楽を楽しめるというわけです」
「ガッカリだよ……」
 天使がつい本音を口に出すと、なにかが彼女の逆鱗に触れたらしい。持っていた本を地に叩きつけるや、血相をかえて内心をぶちまけた。
「なにがシスターだ! シスターは聖書しか読んじゃならんのか! 教えてやろうか、あたしは見た目がシスターっぽいからって理由で両親に無理やり修道院にやられたんだ! その気持ちがお前にわかるのか!」
 シスターの雰囲気につられて出てきた身としては謝るしかなかった。
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