お題:不本意な心 制限時間:15分 読者:40 人 文字数:1271字

感覚よ、そんなのは
「不本意な相手と付き合って、不本意な相手と関係をもって、不本意な相手と結婚する。カナ、あなたの人生そんなことでいいの?」
 カナはわたしの言っていることが分からないかのように首を傾げた。
「不本意な相手って、誰?」
「山下さんよ」
 山下さんはカナが今付き合っている男性だ。ロクに仕事をしていない、風采の上がらない男で、どこで捕まえてきたのやら……。この間紹介された時はビックリした。自分からろくにしゃべらず、ずっときょどきょどしている。こんなのとよく楽しそうに付き合えるものだ。
 カナはいつもこうなのだ。あるグループの中で、付き合える男と付き合えない男を振り分けた時に、付き合えない方に入っている男の内で、一番選んじゃいけないものをさっさと取って行ってしまう。そして、半年ぐらいで別れる。高校からの付き合いであるわたしは、それをもう10回は見てきた。
 25歳も過ぎて、いい加減わたし達は大人になった。「けっこん」の小さい「つ」まで見えてくる年頃だ。学生時代からの恋人と結婚した人も、わたし達のグループの中にも何人かいる。
 それなのに、カナはずっと変わらない。
「山下さんなんて、どこがいいの?」
 えー、とカナはニコニコ笑っている。笑うんじゃないよ、真剣な話をしてるんだ。
 それが伝わったのか、カナはすうっとその笑みを消した。
「あのさ、学生時代からずっとこういうこと繰り返してるじゃん。そういうのって、反省しないの?」
「何で? 反省する必要はどこにもないよ。だって、満足してるから」
 嘘だ、とわたしは断じた。
「あんたは何らかの心の隙間を、そうやって埋めてるだけなんだよ」
「……アサコさ、すぐそうやって決めつけるよね」
 カナは、10年以上の付き合いになるわたしが、見たこともない顔をしていた。普段から愛想のいいタイプのはずの彼女は、その仮面を初めて脱ぎ捨てたのかもしれない。
「別にそんな隙間とかないし、埋めてるつもりもない」
「じゃあ、何であんなのと付き合ってるの?」
 好きだから。シンプルな理由をカナははっきりと言った。
「好きだからだよ。昔からそう。田口くんも、ヤッちゃんも、蓮見くんも、エドも、ゴリ松も。ネットで会ったミミカキさんも、うちの辞めた主任も、三か月でいなくなった新人の佐藤くんも、アブナダミも、みんな好きだから付き合ってたの」
 とんでもない名前がいくつか出てきたが、いや、ゴリ松って高二の時の担任……。
「じゃあ、その、どんなとこが好きなの? あの山下さんはさあ」
「逆に聞きたいんだけどさ、どこが好きかとか、言葉にできなくちゃいけないわけ?」
 感覚よ、そんなのは。カナの口調はやっぱりきっぱりしていた。
「だからアサコ、26にもなって男と付き合えないのよ。あれこれ、論理で考えるから」

 一か月後、カナは山下さんと別れた。
 理由は? と聞くと「感覚よ、そんなのは」と聞いたようなセリフが返ってきた。
 わたしには、まだ彼氏ができないが、できたとしてもカナのことは理解できそうにもないと思う。
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