お題:綺麗な奈落 必須要素:ホモ 制限時間:1時間 読者:71 人 文字数:3446字 評価:1人

奈落少年エレムルス
 僕の目の前に現れたそれは、オタマジャクシのような姿をしていた。黒い頭で尻尾が長く、目は飛び出ている。前足のようなものが生えているので、遠からずカエルになるのかもしれない。
 一般的なオタマジャクシとの違いはその大きさで、頭がバレーボールぐらいある。あと、尻尾がえらく細長い。何よりも、宙に浮いている。大体目線の高さぐらいの所だ。
 そいつは人の言葉を話せるようで、こんなことを言い出した。意外と渋い声をしている。
『緊急事態なんだ、星野ユリオ。どうか魔法少年になってくれないか?』
 無茶苦茶な存在が無茶苦茶なことを言い出した。こういうことに二つ返事で答えてはいけない。中学生ともなれば、そんなことはわかっている。
「魔法少年って、僕が? 何で?」
 ちゃんとその辺りを押さえておかないと、とんでもないことになるのは多くのアニメや漫画が教えてくれていることだ。
『実は、この世界にはたくさんの魔法少年がいるんだ。彼らは奈落の底から出てくる敵を倒し、世界を守っている』
「そういうのだったら、桂木くんとかに頼んだら? 僕のクラスにいるんだけど、正義感は強いし、スポーツもよくできるよ。確か、剣道すごいとか聞いたことあるし」
『桂木アキオくんになら、もう頼んだよ。彼はすごかった。奈落からやってくる連中には72人の幹部がいるんだが、その内12人を倒した。お陰で、かなり情勢は好転した』
「え、じゃあ、桂木くんは魔法少年なの?」
 今は違う、とオタマジャクシは身体を横に揺らした。否定の意味らしい。
『魔法少年が魔法少年でいられるには、ある条件が必要なんだ』
「条件?」
 そうさ、と今度は縦に揺れる。うなずくみたいな意味なのだろう。
『それが、射精したことがない男の子であることなんだ』
「……は?」
『よく言うだろ、処女の神聖性みたいな話。あれって、男性もそうなんだよ。射精を経験したことのないペニスを持った……』
 待った待った待った、と僕は慌てた。桂木くんの下半身事情をこんなことで知ってしまうなんて。
『敵もそのことを知っているから、こっちの魔法少年を射精させようとしてくるのさ。そのために美人な巨乳を送り込んで魔法少年たちを籠絡しようとしてくる』
「桂木くんも、それで?」
 いいや、と横に揺れるオタマジャクシ。
『彼には美人巨乳は効果がなかった。ただ、単純に体の成長があってそれで夢精して、魔法少年を卒業したのさ、残念ながらね』
 射精した魔法少年は射精に至ると、魔法と魔法少年であった事実を忘れてしまうという。そうして普通の生活に戻っていく。そのことを卒業というそうだ。
『魔法少年が卒業するたびに私たちマスコット、通称「淫獣」は他の魔法少年を探すのさ』
 自分で淫獣って言うのか。
「だからって、僕がやらなきゃいけないってことはないよね? うちのクラスにもまだ深見くんとか、他のクラスだけど武山くんとかいるじゃないか」
『いや、君しかいないんだ』
 魔法少年一人が守る区域は、大体中学校の校区一つ分らしい。それで、このオタマジャクシはうちの中学から魔法少年を選んでいるそうだ。
『この学校の男子生徒で精通を迎えていないのは、もう君だけなんだよ』
 衝撃の事実に僕は頭を殴られた気になった。学校全体ということは、僕の一学年下、中学一年生は全員精通しているということだ。半年前までランドセル背負ってたくせに、このマセガキどもめ!
『他のみんなは生えているだろう? ユリオ、君はまだじゃないか』
 腰の高さまでオタマジャクシが下りてきたので、僕はズボンの前を押さえて後ずさった。
「いや、でも、僕は……」
『大丈夫だ、危険なことはそんなにない。何、深く考える必要はない。巨乳美女に射精させてもらえるチャンスと考えるんだ』
 でもそうしたら、またオタマジャクシは別の人を魔法少年にしなくちゃならない。それはいいのか、と問うと『別にかまわない』と言う。
『地域内の中高生が全部魔法少年になったり、適合者がいなくなったりしてしまった場合のみ、小学生を魔法少年にしてよくなるんだ。君ができなくなったらそうするだけさ。今は危険も少ないだろうしね』
 桂木くんの活躍が効いているようだ。さすがは桂木くんだ。
『ね、ね、だからどうだろう? やってもいいんじゃないかな?』
 押しつけがましいことをオタマジャクシはのたまった。でもなー、別に巨乳とか興味ないしなぁ……。
『貧乳もいるかもしれないよ?』
 乳の大きさを問題にしているわけではないが、言ってもわからないだろう。
「わかったよ、やるよ」
『やった! じゃあ、これを渡しておくね』
 オタマジャクシは僕のズボンの「社会の窓」の辺りに触れた。すると、そこに南京錠がぶら下がる。ロックがかかっていない状態なので、ぶらぶらしている。
「これは?」
『変身アイテム「キンジョー」だよ。これをロックすることで、君は魔法少年となる』
 試しにやってみたまえ、と言われるままに僕は南京錠をかちりと止める。
 たちまち僕の体は白い光に包まれた。それが晴れると、姿が変わっていた。いや、変わっているというよりは……。
「ちょ、鉄パンツ一丁なんだけど……」
 金属製のパンツ以外、僕は何も身に付けていなかった。パンツにはちょうど前の部分に、さっきの南京錠「キンジョー」がぶら下がっている。
『鉄パンツじゃないよ。貞操帯だよ。それが魔法少年の戦闘スタイルだからね』
「は、恥ずかしい……裸じゃないか!」
『世の魔法少女も、ほとんど裸みたいな格好で戦っているじゃないか! あるいはパンツがちらちらしたりとかさ』
 オタマジャクシがいうには、裸に近い格好の方が魔法の真理に近付けるという非常に理にかなった理由であるらしい。
『そういうわけだから、頼むよ星野ユリオ、いや――』
 エレムルス、とオタマジャクシは僕を謎の名前で呼んだ。

 こうして、僕は長らく魔法少年として戦った。
 確かに敵の「奈落」は当初、僕を射精させようと巨乳の綺麗な女の人――文字通り「サキュバス」と呼ぶらしい――を送り込んできたりもした。だが、僕には効果はない。何人ものサキュバスが、僕の魔力の前にその美貌を散らした。
 魔法少年は原則的に一つの魔法が使えるらしい。魔法少年エレムルスたる僕の魔法は「逆襲」だった。受けたダメージを上乗せして攻撃できるというもので、僕は基本攻撃してこないサキュバスを倒すために自分を自分で殴りまくり、それを上乗せしたパンチで葬って行った。
 僕が一向にサキュバスに引っ掛からないのを見て、「奈落」は攻め方を変えた。オタマジャクシ曰く「ストロングスタイルの作戦」らしく、今度は悍ましい姿の怪物が僕を襲ってきた。
 しかし、それにも何とか打ち勝ってきた。「逆襲」の魔法は、ピンチからの一転攻勢に適しているため、追い詰められれば追い詰められるほど、僕に有利になるのだった。
 そして遂に、幹部が現れるようになる。桂木くんが12人も倒したという連中だが、よくもまあ彼はそんなに勝てたものだ、と感心する。それぐらい強かった。
 まず、「逆襲」を封じてくる。そのせいでピンチがただのピンチでしかなくなった。上手く「逆襲」を使えたとしても、ダメージが思うように与えられなかったりもする。さすがは幹部と呼ばれる人たちだ。
 それでも、何とか2人は倒した。「誇っていい」とオタマジャクシは褒めてくれた。この頃には、僕は中三になり、それはつまり中学に新入生が入ってくるということだった。
『もう無理しなくてもいいよ、ユリオ』
 オタマジャクシは僕の家にやって来てそう言った。魔法少年の負ったダメージは大抵、一晩寝れば快復するのだが、最近の僕は傷の治りが遅くなっている。「逆襲」の使い過ぎで魔力が落ちているらしい。
『君の命も危険だ。魔法少年委員会としては、死人は極力出したくない』
 その委員会がオタマジャクシの所属している組織らしい。どうも公的機関が絡んでいるようで、トラブルを非常に嫌うことがこの半年で分かってきた。
『だから、これを使いたまえ』
 それは「アビスホール」と呼ばれる品で、紅白のこけしのような形をしていた。
『これを使うと、精通できるから』
 僕はその言葉に甘えることにした。「アビスホール」を装着して、桂木くんを思いながら、魔法少年からお別れしたのだった。

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