お題:とてつもないパラダイス 制限時間:15分 読者:60 人 文字数:1187字

ミステリー楽園ツアー
 「楽園ミステリーツアー」というフレーズにつられて、行先のわからないツアーに参加してしまった。当日集まった参加者は僕一人で、よくもまあ中止にならなかったものである。
「元々定員三名なんで。試験的にやってみようという企画ですし」
 ガイドさんはそう説明した。なるほど、車もバスではなく普通の四人乗りのセダンだ。
「じゃあ、後ろ乗ってください。わたしが運転するので」
 促されて、後部座席に僕は座った。
「あの、行先は?」
「まだ秘密です」
 集合場所だった大きなターミナル駅を出発して、車はしばらく走った後に高速に入った。
「どれぐらいですか?」
「一時間ほどですかね」
 なら大体あの辺りかな、と僕は隣県の海水浴場を思い浮かべる。
 最近は春とは思えないくらい暖かいし、ちょっと足をつけるだけでも楽園感は出る。どうにも、僕にとっての楽園はハワイとかグアムとかあの辺りのイメージなのだ。
 しかし、その想像は間違っていた。
 聞いたこともないようなところで高速を降り、予想に反して車は山の方へ走る。
「海じゃないんですか?」
「海が楽園なわけないじゃないですか、あんな危ないところ」
「え、でも旅行会社って、よく南の海の楽園でどうのってツアーを組むじゃないですか」
「そういうタイプの会社じゃないんです、うちは」
 基本屋内なんです、と彼女はどこか誇らしげに言った。
「旅行に行ったからと言って、どうして外にいる必要があるのでしょう。屋外の予定なんて、雨が降ったりしたら台無しになってしまう。リスクが大きいんです」
「いや、あのせっかく旅行に出たんだから、屋外にいたいじゃないですか」
「おや、アウトドア派ですか?」
 意外そうに彼女は首を傾げる。
「おかしいなあ、うちのお客さんにアウトドア派がいるなんて……。もしかして、バーベキューとか好きだったりしまう?」
「好きですけど……ダメなんですか?」
「うちの会社ではアウトドア派のことを、特にバーベキュー好きの輩のことは、原始人と呼んで忌み嫌っています。肉を焼くだけで盛り上がれるという原始的な衝動で生きているからです」
 きっぱりと、さも当然のように言い切りやがった。
「原始人にはまだ早い娯楽かもしれませんね。ごめんなさいね、文明的に高度で」
 車から降りたくなってきたが、そういうわけにもいかず、僕はそのまま揺られていた。
「着きましたよ、原始人。ほら、降りた降りた」
 呼び名が原始人になったことに反論する間もなく、追い立てられるように僕は車から出る。
 目の前には、何とも言えない形の建物が建っている。立方体を組み合わせたような、幾何学的な、どうやって建てたのか想像もつかないような建物だ
「これ、美術館ですか?」
「ええ。現代アート専門の美術館です」
 原始人には難しくてごめんなさいね、とガイドは嫌味を言った。
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