お題:過去のガールズ 制限時間:15分 読者:100 人 文字数:1124字

過去のガールズ
 あらまあ、いやだわあははは。大口を開けて笑うご婦人方はどうやら買い物帰り。近所のスーパーのビニール袋、はみ出している長ネギは炎天下にしおれ気味。そりゃそうだ、こんな暑いなか延々と橘氏に付き合わされれば人間だってそうなる。
 見れば見るほど奇妙な仲間意識だと思う。だって彼女たちは、互いのことを本当に好きでいるわけではないのだから。
 夫の給料で張り合い、子供の成績で競い合う。自分の能力で戦うことは決してしない。仲良さげに喋りつつ、それとなく相手の暮らしぶりを伺う。これは自分より上だとか、あれは自分のほうが勝っているとか、細かく勘定しながらそれでも顔だけはにこやかにキープしている。
 いつだって、基準は他人。誰かより優位に立っているかどうか、それだけに注視する。相手を妬み、嘲り、自分を鍛えようなどとは思わず、相手が勝手に凋落していくのを、あるいは自分の手を汚さず相手が堕落していくのを待っている。
 そういう意味で、県内で一番偏差値の高い学校に通う俺も立派な母親の武器だ。
「あらあトモキくん、お帰りなさい」
 猫なで声でお出迎え。やめてくれ、吐き気がする。いくらあんたのところの娘が俺と同じ学校に受からなかったからって、敵意を含んだ目で見るな。合格発表の日、期待に答えようと自分を追い込み続けたあんたの娘が、団地の裏手で吐くまで泣いていたことすら知らないくせに。
「どうも」
 けれど、そんなことを言う義理はない。彼女にかける言葉がなかったように、このおばさんたちにかける言葉も俺は持っていない。
「毎日遅くまで勉強して偉いわねえ、たまには息抜きしなきゃだめよ?」
「部活はしてないの?」
「彼女はできた?」
 果たして一体なんの権利があってそんな発言をしているのか、難関校の入試を切り抜けた俺にもわからない。多分一生わからないだろう。俺にだって、理解を拒む権利くらいある。適当な笑みを浮かべて脇をすり抜けた。
「最近の子は愛想がないわねえ」
「勉強ばっかりしているからああいう子になっちゃうのよ」
「やっぱり家庭環境が大事よね」
「そうよね、親の愛情が足りてないのよね」
 背中に叩きつけられる無責任な罵倒が頭に血を上らせる。元々今の学校に入ることを決めたのは俺自身だ。なのに、せっかく選んだ自分自身の人生は親の自慢の種になり、俺が理由なく罵倒される理由にもなる。
 虚しい。虚しすぎる。とっとと家に戻って明日の予習でもしよう。
 あんたたちも早く帰りなよ、過去のガールズ。昔はあんたたちだってやりたいことや夢にあふれていたろうに。自分の人生を選んでいくのだと胸を高鳴らせていたろうに。
 あんな大人になるなんて、まったく憂鬱なことだ。
作者にコメント

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